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制服
「あのさ~、制服ってポケット微妙だよねぇ。」
沙耶はブレザーの制服をポンポンと上から下まで軽くたたきながら美代に言った。
「あ~、確かに。ベストの胸ポケットはお飾り程度だし、スカートもちょっと厚手のハンカチ入れると膨らんじゃうしねぇ。」
スカートはプリーツなので、基本形が崩れないようにポケットにはあまり物を入れたくない。
ブレザーを着ている期間は春先と冬だけ。
ブレザーを着ている時にはブレザーの大きなポケットにハンカチやら飴をいれておけるのだが、来ている期間はごく短い。
ほとんどの季節を不便に過ごさなければいけないのだ。
でも、最近は良いものが出ているのだ。
スカートにクリップで止められる後付けのポケット。
母親などはこれを使いなさいと買ってくれるのだが、幼稚園児とか、小学生ならつけていても可愛いのだが、流石に高校生ともなるとつけて歩くのも恥ずかしい。
結局はカバンの内側のポケットに挟んでつけて、カバンのポケットの数を増やしているに過ぎない。
でも、あちこち入れ替えている間に沙耶の持ち物はいつもどこかに行ってしまう。
沙耶のカバンの中には小さな妖精が住んでいた。ケットというその妖精はサヤの小物が大好きだった。
お母さんがスカートにつけるポケットを買ってくれた時にそのポケットについてきた妖精だったのだが、一向に沙耶のスカートにはつけてもらえないので、カバンに住み着いてしまったのだ。
沙耶のカバンは夢の様に色々なものであふれていた。
綺麗なキャンディー。綺麗なハンカチ。可愛いプリントの絆創膏。可愛いティッシュ。毎日お母さんが作ってくれるお弁当の良い匂い。
ケットはその日に気に入った物をカバンの一番奥まで引っ張り込んで、それで巣をつくる。
器用にクルクルと鳥の巣のようにくぼみをつけてその中に入り込んで一日を幸せに過ごすのだ。
お弁当の匂いに包まれてカバンの中で眠る沙耶の午前中の授業の時間がケットの毎日の幸せの時間だった。
ティッシュや絆創膏、お弁当のつつみの隅っこなどでケットが巣を作っている時にはあまり沙耶に気づかれずに静かにお昼寝ができるのだが、一番のお気に入りのハンカチの時にはカバンの中をガサゴソと探されて、起こされてしまう。
「おっかしいなぁ。落とさないようにわざわざお母さんが買ってくれたクリップ付きのポケットに入れているのに、いつも、カバンの中のどこかに落ちているのだ。それもくしゃくしゃになって。
くしゃくしゃのハンカチ程恥かしいものはない。
沙耶は、薄手のハンカチを買ってもらって、ハンカチだけはポケットに入れるようになった。
ケットは一番好きなハンカチが手に入らなくなってしまったので他の小物で毎日を何とか楽しく過ごそうとしていたのだけれど、たまにはどうしても、あのハンカチのふんわりした感触が忘れられない。
ケットはカバンをエイッと飛び出して沙耶のポケットに飛び移った。
沙耶のポケットの底に沈みながら、ケットはハンカチにつかまってポケットの底に小さな巣を作ってそこで眠り始めた。
休み時間に沙耶はトイレに行って、ハンカチを使おうとしたが、ポケットに入れておいたのに、無い。
忘れた?いや、今朝入れたよ?
沙耶はポケットの奥まで手を突っ込むとようやくハンカチらしきものに触った。
なんでこんな奥底まで?そう思ってそっとハンカチを出してみると、何かがハンカチにぶら下がっている。
「なに?」
『あの~~ケットと言います。』
「へ?」
『ハンカチ好きなんです。カバンの中で寝るのも。でも、最近、ハンカチがカバンになくて・・・・ごめんなさい。いろいろなものが迷子だったのは僕がカバンで・・・』
「はぁ。。えっと?カバンにハンカチを入れておけばいいのかな?」
『え?いいんですか?』
「えぇまぁ。普段使うものがないと不便なので、それで済むんだったら。」
そうして、沙耶はあっさりとケットの存在を認めたうえ、カバンのポケットにはいつも可愛いハンカチを入れてあげた。
なんで不思議に思わなかったかですって?
だって、ケットはお母さんが買ってきてくれたクリップ付きポケットに描かれているキャラクターだったから。
お母さんの気持ちも一緒に入っているのかと思うと、意地悪もできないくて。だから今はもう使わなくなったけど、小学校の時に気に入っていて、捨てられなかったハンカチをカバンに日替わりでいれてあげることにした。
イチゴの模様。傘の模様。犬の模様。猫の模様。ウサギの模様。うん。改めて見直しても可愛い。これならケットも気に入ってくれるよね。
それからは、ハンカチ以外のものはカバンの中で迷子にならなくなった。
ケットは姿を見せないけれど、きっと毎日沙耶と一緒に学校に行って、お弁当の良い匂いを嗅ぎながらハンカチで巣を作って眠っているのだろう。
【了】
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