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「あー、なんか久々に日光を浴びた気がする」
凌太はそう言って大袈裟に伸びをしてみせた。
「さすがに朝はもう陽が出てるでしょ」
私の言葉に、凌太は口を尖らせる。
「朝日と昼間のお日様とは違うし」
そう、私達受験生に冬休みはない。
私達が通っているのは、国立・難関私大向けの塾だ。
学校が休みの日も夜遅くまで授業がみっちり詰まっていて、デートをする暇なんてない。
こうして塾の帰りに二人で歩くぐらい。
凌太とどこかへ出かけたのは、夏休み地元のショッピングモールに行ったのが最後だ。
でもさすがに元旦の今日、午後はひとコマで終わりだ。自習室も閉められる。
そこで合格祈願に初詣に行こう、ということになったのだけど……。
「松野神社はどお?」
凌太のセリフに私は頬を緩めた。
「うん」
凌太がどういう意図でそう言ったのかはわからなかったけれど、些細なことでも意見が合うのはなんだか嬉しい。
松野神社は塾の近くにある小さな神社だ。
お正月でも地元の人達が時折お詣りに訪れる程度で、社務所もない。
何の神様が祀られているのか知らないけれど、せっかくゆっくりできるのだ、わざわざ人混みに行く必要もないだろう。
私はご利益よりも凌太と一緒にいたいだけなのだ。
そもそも私は何を願っているのか、自分でもよくわからないのだから……。
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