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凌太に合格守りを作ってあげよう。
そう思いついた時は、あまり深く考えてなんかいなかったんだ……。
凌太は高校に入った時から東京の国立大を目指していて、いつも成績は学年でトップクラス。
ブレることなく真摯に勉学に取り組む彼を尊敬していたし、目標にもしていた。
志望校は違うけれど、私自身A判定に食い込めたのは凌太の影響も大きいと思ってる。
お互い切磋琢磨し合える良い関係。
そうありたいと思っていた……。
「国立一本でいく。ダメだったら来年またチャレンジする」
気持ちが揺らぎ始めたのはのは凌太のこのセリフからだった。
もし凌太が浪人することになったら、もう1年一緒にいられる……。
本当は凌太の現役合格を願わなければならない筈なのに、その可能性は私に希望を与えてしまったのだ。
彼氏の不合格を願うなんて、私は最低な人間だ。
そう思いながらも、ふとした瞬間に湧き上がる黒い思い。
鮮やかなブルーの生地に施した「合格」の刺繍。油断するとその上に不の文字が見えてくる。
真っ白な刺繍糸をひと針ひと針縫い付ける度に、私の気持ちが増幅されていって、その繊維の内側にまでじわじわと染み込んでいくような気がした。
「合格、合格」と心の中で唱えながら、意識しないよう注意する。
でも、意識しないようにするのは意識しているのと同じこと……。
中にメッセージを入れるかどうか悩んだけれど、どんなものにしても呪いの言葉になってしまうような気がして、白い綿だけにすることにした。
それでも真っ白な綿がいつの間にか真っ黒に変わっているのじゃないか、そんなふうに思えてきて、中を覗いてみるのが怖くなった。
これはもうお守りというよりも、呪いの藁人形だ。
こんなものを凌太に渡せる訳がない……。
その辺りから私の成績も不安定になっていった。
国立がダメで地元の私大に行って奨学金を貰うのなら、東京の私大だって同じだ。
レベルを落とせば特待生として受け入れてくれる学校もある。
そうすれば凌太と一緒に東京で……。
もう自分の目標が何なのかわからなくなる。
でも、凌太の前ではちゃんと自分を持った人間でありたかった。
男を追いかけて東京に行くような短絡的な人間だとは思われたくなかった。
頭の中でぐるぐる、ぐるぐる……。
さまざまな想いが渦を巻く……。
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