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〈明日、2人とも帰って来ないんだって。  泊まれるよね?〉  律希と触れ合うだけの関係から一線を越えたのは梅雨に入る少し前。  普段から不在がちな親が2人揃って外泊した時のこと。  お世話になっている人たちと宿泊込みの宴会で、金曜の仕事が終わってから温泉旅館に集まり宴会をするそうだ。このご時世にと若干呆れるけれど、この辺では珍しくない習慣だ。翌日は朝には解散だけど、いつもと同じなら早くても昼頃までは帰ってこない。  一度触れ合ってしまえば我慢なんてする事ができなかった。今までは部活で発散していた色々な欲が律希に向けられるのは必然。  週末に律希が来るたびに触れ合い、その触れ合いは次第にエスカレートしていく。はじめは触れ合うだけで、2人の昂りを合わせ、触れたり触れられたり、それぞれの溢す滑りを纏わせて欲望を高め合うだけで満足できた。  唇を合わせながら触れ合い、白濁を吐き出す。  それはほんのいたずら心からだった。  衣類を全て脱ぎ去り、無防備にベッドに横たわる律希をいつものように昂めていく。唇を落とし、指で触れ、舌を這わす。快感に慣れた律希の陰茎はすぐに立ち上がり、涙をこぼし始める。  律希は快感に弱い。  考える前に行動を起こしたのは本能だったのだろうか、溢れた涙をペロリと舌ですくい、何が起こったのか理解できず動きの止まった律希の陰茎をそのままパクりと咥える。青臭さが口に広がるけれど、悪くない。 「や、貴之、何してるの?  やめて、って」  逃げようとする律希の腰を掴み、先端を少し吸えば「ひぁ、あ」と声を漏らすのが可愛い。いくら小さいとはいえ律希だって男だ。本気を出せば逃れることはできるはずだけど、優しい律希は俺の足を気遣って本気の抵抗はできないのだろう。  舐めて、吸って、先端を舌で刺激したり、双球をやわやわと弄び、どうしていいのかと戸惑う律希はその快感を逃すために身を捩るけれど腰を掴まれて逃げることができず、視線だけでその様子を見れば枕を抱きしめて耐えている姿が可愛くて仕方がない。 「たか、や、ってば。  いゃ、、出ちゃう」  刺激を緩めることなく、そっと後孔に触れてみると律希も少なからず意識していたのだろうか、そんな言葉のすぐ後に身体がビクリとしなると俺の口に青臭さが広がった。  人のものはもちろん、自分の出したものだってさっさと洗い流すのに律希のそれは出してしまうのが勿体無くて、そのまま嚥下する。 「貴之、何してるの?  や、まさか、飲んだ?」  顔を真っ赤にした律希が泣きたいような、怒ったような顔をしているのが面白くて起こした身体を引き寄せそのまま口付ける。はじめは素直に唇を重ねた律希だったけど、舌を入れた時に気付いたのだろう「た、やだ、さぃて、」青臭さに顔を顰めて顔を逸らそうとするけれどそれを許さずその口内を味わってから顔を離す。 「貴之、変態」  怒った顔も唆られるだけだ。 「ねぇ、律希。  俺もこんなになってるんだけど?」  そして、胡座をかき期待して起立したままのソコに律希の手を導く。ゴクリと唾を飲み込んだのは気のせいじゃない。 「俺のも、触って?」  そう願えば導いた手をゆっくりと動かし始めるけれど、それだけでは物足りない。「ねぇ、舐めて?」手持ち無沙汰になってしまった手で律希の頭を撫で、指を体に這わせ、そっとお願いしてみる。 「えっ?」  そんな声を漏らし、戸惑いを見せた律希に「はじめては律希がいい」と囁けば戸惑いながらも俺の陰茎に顔を寄せ、「本当に?」と上目遣いで俺を確認し、頷いたのを確認したのか先端にそっとキスを落とした。  キスを落とし、ペロリと舐めて顔を顰める。自分のされたことを思い出しながらの行為なのか、口に含み、舌を這わせ、吸いながら口に入らない部分に指で触れる。 「律希、出すよ」  情けないけれど我慢できなかった。  律希の髪を撫でていたせいで、一瞬動きが止まったことに気付いたけれど、律希の了解のサインを確認する前にその口に白濁を吐き出す。律希の口から何か声が漏れたけれど自分の意思で止めることのできないそれは律希の口内を染め上げていく。  顔を上げた律希は口内のそれをどうしていいか分からないようで、涙目で俺を見るけれど、口の端から漏れた白濁がいやらしい。 「出していいよ」  ティッシュを渡せば申し訳なさそうに吐き出すけれど、全てが無くなるわけではない。俺の出した白濁が律希の体内を侵すことを考えて仄暗い喜びを感じる。  こんな事、健琥にはできないだろう。  律希の表面しか見れない健琥と違い、俺は律希の内まで支配できるんだ。  この頃から芽生えたそんな思い。  律希を支配して、自分の腕の中に閉じ込めてしまいたい。  だから、親が不在のその日に律希の全てを自分のものにしたのは俺にしてみれば当たり前のことだった。  知らないなら調べればいい。  そう思い色々調べたせいで人に見せられない検索履歴が出来上がる。そして、必要なものを用意しておく。  律希を傷つけたくないからローションとコンドームは用意しておいた。結局は男相手でも女相手でも挿れるのは同じだ。 「男同士だと少し面倒みたい」  部屋に向かいながら律希にそう言ってまずはバスルームに、と思ったのに一度家に戻り準備をしてきたと言われ少しがっかりする。律希の初めてを全て欲しいと思っていたから当然それも、と思っていたのに。だけど、準備がいらないのならそのまま部屋に向かうだけだ。  お互いにそのつもりだったのだからやることは決まってる。  今日は制服じゃないからそのままベッドに入り、お互いの服を脱がせ合う。緊張しているのか少し震えているのは気のせいじゃないだろう。  いつものように唇を重ね、舌を絡ませ、唾液を交換する。その間も指で律希の身体をなぞり、律希が気持ち良いと吐息を漏らすところを重点的に可愛がる。 本当はすぐに律希の中に入りたいけれど直ぐにそこを触るのはいくら何でもがっつき過ぎだろうと自分を諌める。  そして、いつもよりも早く律希の陰茎に触れ、そのまま後孔に指を這わせる。  支度をしてきたと言ったけれど、念のため指にコンドームを嵌めローションを纏わせる。 「指、入れるよ」  そう言ってまずは1本指を入れる。  支度をしてきたと言った通り、1本目はスムーズに飲み込まれていく。「あったかい、」思わずそう呟けば恥ずかしがって顔を逸らす律希が可愛い。  それからは夢中だった。  早く律希の中に入りたくてとにかく指で律希の内を刺激する。1本目の指がスムーズに動かせるようになったら2本目、2本目も大丈夫そうなら3本目と指を増やしていく。指を増やすたびに足したローションはクチュクチュと音を立て始め、受け入れる準備ができたと知らせている。 「律希、挿れさせて」  我慢できずコンドームを付け、律希の後孔に押し当てる。そして、きっと同じ気持ちでいるはずの律希の答えを待つ事なく律希の内に押し入った。  緊張しているのか、拒否するように締め付ける後孔に勢いのまま押し入る。たっぷり使ったローションのおかげで繋がると、律希の内の温かさに持っていかれそうになるのをグッと堪える。  せっかく繋がったのだから1秒でも長くその内に入っていたい。  そんなことを考えながら律希を組み敷き、揺すぶり続ける。  時々漏れる律希の声が艶めかしい。  時折何かに耐えるように眉間に皺を寄せる姿さえも愛おしい。  俺と律希しかいないのに声を抑えているのだろう。 「律希、イッていい?」  そんな健気な律希が可愛くて耐えるのを諦める。額から流れ落ちた汗が律希の顔に落ちる。 「たかゆき、イって」  その言葉に煽られ2度、3度腰を打ち付けそのまま律希の内で果てた。  ズルリと引き抜いた陰茎はまだ硬さを保ってはいたけれど、初めてで2回は可哀想かと思いコンドームを処理してティッシュに包んで捨てる。 「律希、好きだよ」  ドサリと律希の隣に身体を横たえ、そう伝えると「ボクも」と返ってきた言葉に満足した俺はその細い身体を抱きしめてそのまま眠りについた。  一度してしまえばハードルは下がる。  金曜日に親が遅くなる時は身体を重ねることが当たり前になった。それなのに準備がしてないからと拒む時にはバスルームを使うように促す。  一度だけ準備を手伝ったけれど、思ったよりも大変そうな律希の姿を見たくなくてそれ以降はバスルームに一緒に入ることはなかった。  それでもローションは用意していたし、指でほぐすことは怠らない。  何度か繰り返し、律希が可愛い声を素直に出すようになった頃にはコンドームを使うのをやめた。ローションとコンドームを用意するのは高校生の小遣いには負担が大きいのだから仕方ないし、生の方が気持ち良い。小遣いが節約できて気持ち良いなんて良い事しかない。 「この方が気持ち良いから、お願い」と言えば律希も頷く。これが異性相手なら妊娠の心配があるけれど、律希相手ならその心配もない。  それにきっと、律希だって生の方が好きなのだろう。  1学期が終わり、夏休みになれば部屋に来る回数も増え、部屋にくれば当然のように律希のことを抱いた。時間がないと言われても、律希の匂いで反応してしまったからとその責任を取るために口でしてもらうのも日常となった。  律希の存在そのものが俺を誘っているのだから仕方がない。 「律希、進路は変えないの?」  その日も塾の後で部屋に寄った律希を当然のように抱き、泊まることはできないからと着替え始めた時に声をかける。後ろから流れ出ることを気にしながら着替える律希をもう一度抱きたいと思ったけれどそれは許されないだろう。会う度に身体を重ねているのにまだ足りない、まだまだ足りないんだ。 「何で?」  ベッドでダラダラしている俺を見下ろしながら不思議そうな顔をするけれど、律希はもっと俺といたいと思ってはくれていないのかと不安になる。 「遠くに行ったらこんな風に会えないじゃん。別に健琥と同じとこじゃなくてもいいんじゃない?」 「でも目標にしてきたとこだし」  即答だった。  いつもなら健琥の名前を出したことを咎めるのにそんな事もなく、着替えの手を止めることもない。それが面白くなくて言いたくても言えなかったなかったことを口にしてしまう。 「別に同じ学科なら近くにもあるんじゃないの?」  遠回しに学校を変えて欲しいと伝える。律希の一生を左右する大切な問題だと分かってはいるけれど、律希の一生を左右する大切な事だからこそ言ってしまう。「例えば…」と何となく調べた大学名を挙げると律希の眉間に皺がより表情が止まってしまう。 「ボクもまだいまいち理解できてないけど、学科とかコースとかあって学びたいコースがあるのが健琥と同じ大学なんだ」  しばらく考えた後で告げられた言葉。  あまり困らせたくなくて「そっか」と答えるけれど、期限が急降下するのを抑えることはできない。 「やっぱり近くの大学に行こうかな」そんな風に言ってくれるのを期待していたわけではないけれど、それでも嘘でもその言葉が欲しかった。 「夏休み終わったら今みたいに来れないから」  そして、支度が終わるとその流れで告げられた言葉。 「何で?」  思わず大きな声を出してしまう。  今みたいにとは夏休み中のように、ではなくて夏休み前みたいにと言う意味だと分かっていたけれど、それでも足掻きたくなる。近くの、レベルを下げた大学ならそれも可能なはずだ。 「何でって、受験勉強。  もともと夏休みの後は友達も時間が作れるって言ってたよね?」 「そうだけど…」  はじめに言った言葉を言われてしまうと分が悪い。こんな関係になるなんて思っていなかったせいで、簡単に気安く言ってしまった言葉が忌々しい。 「…ボクの行きたい大学って、経営について学んだり経営に必要な資格取ったりできるんだよね」  苛々し出す俺を尻目に律希は言葉を続ける。そして、俺の様子を伺うように告げられた言葉は俺と予想の違う言葉だった。 「貴之、家を継ぐんでしょ?  ボクが経営のことちゃんと勉強したらいつか貴之のこと、手伝うことができるかもって」  はじめは何を言われたか理解できなかった。俺のことを手伝うと、どんな意味で言っているのかが分からない。それでも、俺のために何かを学ぼうとしてくれているのだと何となく理解する。 「それって、俺を選んでくれるってこと?」 「選ぶって?」 「健琥じゃなくて俺を選んでくれるの?」  どうしても気になって、素直に喜ぶことができなくて、それでも安心したくて健琥の名前を出す。  健琥を選んで同じ大学に行くのではなくて、俺を選ぶために遠くの大学に行くのだと、それを確認するために。 「健ちゃんは違うよ。  貴之はすぐに健ちゃんのこと気にするけど貴之のこと好きな気持ちと健ちゃんのこと好きな気持ちは全然違うから」 「だから…健琥のこと好きとか言わないで」  律希の言いたいことは理解できるけれど、それでも自分以外に向けた「好き」は聞きたくない。  情けない顔をした俺を慰めるためなのか、話をするためにベッドに座っていた俺に律希が跨りそっと唇を重ねる。 「こんな風にしたいのも、女の子みたいに抱かれてもいいと思うのも貴之だけだから。ボクのこと、信じて?」  そんな健気な律希が可愛くて、辿々しく舌を絡める律希が可愛くて、思わずもう一度と腰を抱き、その下に手を伸ばそうとしてパシリと手を叩かれてしまった。調子に乗りすぎたらしい。 「いつか一緒に暮らしたら好きなだけしようね」  ベッドから降りた律希が可愛い笑みを漏らす。 「いつかな」  その時から挨拶のように交わされるようになった会話。  それでも時々不安になってしまい束縛してしまいたくなる。 「4年は我慢するから」 「長期休みは帰ってきて欲しい」 「毎日連絡するし、律希からの連絡が欲しい」  そう言って、律希を繋ぎ止めようとした。 「学校始まっても金曜日は来れるだろ?」  そう確認したのは有耶無耶にされて部屋に来る回数を減らされたくなかったから。夏休みはもっと会えると思ったのに夏期講習があるからと言われ、健琥と一緒だと思うと抑えが効かなかった。貪るように抱いたせいか、夏休みの後半になると理由を付けて部屋に来ることを拒む日もあった。 「学校始まったら貴之だって予定ができるでしょ?」 「律希が塾から帰る頃には俺だって帰ってきてるし」 「約束はできないけどたまになら」 「金曜日はゆっくりできないから土曜日も来れるよね?」  何とかして繋ぎ止めたかった。    金曜日には短い時間で身体を重ね、土曜日にはゆっくりと律希のことを可愛がる。何度も何度も俺のことを受け入れた後孔は、俺を受け入れて喜ぶことを覚え、時には律希主導で楽しむこともあった。  心も、身体も、全てを俺で埋め尽くしてしまいたい。  律希の全てが欲しい。  身体も、心も、律希の時間も全てを俺のものにしてしまいたい。 「一緒に暮らすようになれば律希のこと抱いたまま寝れるのに」  抱いた後でそそくさと帰ってしまう律希に告げた言葉。 「そのためにボクが今、頑張ってるんだよ」 「本当は離したくない」 「ボクだって、本当は離れたくなんかない」 「一緒に暮らすようになったら朝まで寝かさないけどね」 「お手柔らかに」 「早く一緒に暮らしたい…」 「いつかね」  甘い約束。  叶わなかった、叶えたかった約束。
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