ポケットの中の小瓶

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「これは九年ほど前のことになります。市内にあるS高校をご存じでしょう。そこに通っていた当時二年生の女子生徒が、校舎の屋上から転落し、死亡したのがそもそもの始まりです。この事件について何かご存じですか?」  敏江は小さく首を横に振った。 「いいえ。初耳です」 「なるほど、そうですか。まあいいでしょう。屋上の周囲には高い柵があり、誤って落ちたという事故の可能性は低いと我々は見ました。おそらく自殺だろう……ということで結論が出ているのです」  唇に指をあてて、敏江は考え込むような表情をする。 「そう言えば、そんなことがあったような記憶もありますわ。多分、新聞で読んだのかと思うけど。それで?」 「屋上にも彼女の部屋にも遺書はありませんでした。しかし、自殺の理由は明白でした。彼女は一年生のとき以来、クラスメイトから、ひどいいじめを受け、かなり悩んでいたようなのです」  その瞬間、敏江の表情に微妙な変化があったのを僕は見逃さなかった。  狼狽にも見えるし、遠い過去を思い出しているようでもある。 「いじめ……ですか……?」
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