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敏江の表情にも明らかに苦悶が浮かんでいる。
僕はカップの中身を一気に飲み干して聞いた。
「萌花さんは、今は一人暮らしをされているそうですね」
「ああ。この近くのアパートだ」
「この家の萌花さんの部屋は、そのままにしてありますか?」
「ああ」
「一つお願いがあります。彼女の部屋にS高校の卒業文集があると思うのですが、それを見せていただくわけにはいきませんか?」
敏江が不思議そうな表情をする。
「どうして刑事さんが萌花の卒業文集なんて見たいんですの?」
「それを見れば、萌花さんがいじめに関わっていたかどうかがはっきりするかもしれません。ご両親としても娘さんの無実を信じたいでしょうし、証明もしたいでしょう。どうです? 見せてもらえませんか?」
敏江は不安そうに夫に目をやる。
雄一は妻に小さくうなずきかけた。
「わかった、いいだろう。お見せしようじゃないか。ちょっと待っていたまえ」
敏江と雄一は、そろってリビングを出ていった。
階段をのぼる二組の足音が僕の耳に響いてきた。
五分ほどすると、アルバムぐらいの厚さの一冊の本を持って、敏江と雄一が戻ってきた。
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