ポケットの中の小瓶

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 濃い緑色をしたその本の表紙には「S高校 卒業文集」の文字が見て取れる。 「これが萌花の文集だ。さあ、好きなだけ見なさい」  僕は文集を受け取り、中を開いた。  ごく普通の卒業文集だ。それぞれのページには、モノクロの生徒の顔写真と氏名、文集のタイトルなどが掲載されている。  将来の夢や希望、学校生活の思い出などが高校生らしい若々しい字で綴られていた。  次々とページをめくっている途中でふと顔を上げると、僕を不安そうに見つめながら、敏江と雄一がすでに冷めかけているレモンティーを口にするのが見えた。  巻末に近い方に「杉原萌花」のページがある。  タイトルは「私の三年間。学校生活の思い出」。修学旅行や学園祭、運動会といったイベントの中で、とくに印象に残ったエピソードが丁寧な字で書きこんである。  雄一が不安そうに聞く。 「どうだ? 萌花がいじめに関係ないことがわかったかね……?」  文集から顔を上げて、僕は小さくうなずく。
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