ポケットの中の小瓶

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 閑静な住宅街に建つ二階建ての一軒家の前に僕は立っている。  ドアチャイムを鳴らす直前、気がつかないうちに荒くなっていた呼吸を整えようと、一度深呼吸した。  そっとボタンを押すと、ドアの向こうからチャイムが鳴る音が聞こえ、やがてドタドタと足音が続き、女性の声がする。 「はい。ちょっとお待ちください」  ドアが外側に開き、中年の女性が顔を出した。  背丈は165センチぐらいでやせ型。髪の毛の後ろの方の一部が白くなっているが、それほど年齢は感じさせない。  なんと言えばいいのかわからないが、往年の名女優とでもいった清楚さと気品を感じさせる顔つきだ。  僕は深々と頭を下げて、言った。 「こんにちは。突然、お邪魔して申し訳ありません。警察の者なのですが……」  着ていたトレンチコートのポケットから、黒い表紙の手帳を取り出して、彼女に見せる。 「け……警察……ですか?」  突然の訪問者の来訪に、彼女は少し不思議そうな顔をした。 「はい。中村と申します。杉原敏江さんですね」 「はあ。そうですけど……」
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