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プロローグ
「あんたのせいよ。あんたのせいであの人は来てくれなくなったのよ」
母は目をつりあげてこちらを睨む。
名門オメガの家系。
父がアルファで商才があり、母は妾でオメガ。そしてオメガを望まれていたのに、生まれた僕はベータで。
それから父は母のところへ来ることがなくなり、父の愛を失くしたと言って母は泣くようになった。そしてそれはすべて僕のせいで。僕は何も言えない。
「役立たずのベータなんて!」
母はいつもそう言って怒っては僕に物を投げつけた。父は何も言わないが、蔑む目で僕を見ている。
オメガにしようと色んな病院に行ってはホルモン剤を注射された。
まれに、それで後天性オメガになることがあるという。でも僕は何年続けてもオメガになることはなかった。
父は家のオメガを名家のアルファに嫁がせることで権力を握って行った。だから家にとってオメガは大切なのだ。
オメガの次に大切なのがアルファ。他家のオメガを娶り、家の勢力を伸ばすべく頭を使っている。
そしてベータ。子を孕むことができないので嫁入りもできないし、家のために働くと言ってもアルファのようにはいかない。つまり、役立たずな性別なのだ。
だから父にとっては失望なのだろう。そして母はオメガを生むことでしか父を引き止めておくことができなかった。
ベータな僕は誰にも愛されることなく成長した。
そして僕が高校三年生のとき、母は風呂場で手首を切り自殺した。
そして僕が第一発見者だ。
母が死んでいた姿を何度夢で見ているだろう。今日も母に責められている夢を見た。
母は夢でも僕を責めている。
「オメガにもなれない出来損ないのベータが」
この言葉は何回聞けばいいんだろう。僕は出来損ないだ。せめてアルファに生まれてさえいれば家の役にもたてたのに。
この家には母の呪い言で満ち溢れている。だから大学を卒業したら家を出ようと決めている。
不出来なベータはこの家には不要だから。
「オメガになれない不出来なベータなんていらないのよ!」
ベータなんて。
ベータなんて。
ベータなんて。
ベータに生まれてごめんなさい。
オメガになれなくてごめんなさい。
役立たずでごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい……
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