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山のランダ
「呪われた巫女。お前がエンルーダの前王を呼び出したのか?」
粒子となって消えたグリーグの姿を虚空に思うニアに、小屋の前へ渡って来た山の人ランダが、更に間合いを詰め問う。
「巫女は前王の娘か?」
(、、其の様な間柄になると言っていいのかしら。 グリーグは私にとって、親みたいな存在だから、、でも。 )
実母メーラとは平民落ちをした時を女ふたりで凌だからか、母親というよりもニアには、同志に近い気持ち。
グリーグとは、前世も含め父への思いから始まったが、あと少し一緒に暮らせていたならば、もっと違う気持ちがニアの中で成熟したのかもしれない。
そんな予感はニアも感じていたが、やはり娘程の年の違いだ。
「さっき前王は、お前に跪いていた。あれは、前王の主という事を、我らに示していたのでは無いか?。」
より間近に来れば、ランダの顔は精悍で整った顔をしており尚の事、並々ならぬ気迫を感じる。
(う、、そんな大層なモノでは無いと思うけれど。後へは引けない。)
「とにかく、、私は自分の身柄を保証してもらいたい!!」
ランダは難しい顔をしながら、周りの山の人者達を見回す。
「生憎、我らは自分達が狩った獲物を、やすやすと手放す事はしない。」
ランダは小屋まで飛んで渡って来たが、其れ程の飛翔力は稀に見る能力なのだろう。
ランダに続いてニアの前に渡ろうとする、山の人は居ない様に見える。
「 しかしイーサンとスーは、あの通りの在り様だ。どうやら男として使い物にならん。呪われた巫女である、お前を欲しいとは言わんだろう。 」
そう言ってランダは小屋から見えるビッグツリーの一つを指差す。ランダは其処を侮蔑する様な目で見つめる。
昨夜は明かりが無いに等しく、ほとんど顔をなど認識出来なかったが、其処にいる男ふたりがイーサンとスーなのだろう。
「なら、私の事を逃がしてくれるという事でいいかしら? 」
「残念だが其れはならん。 他の者にも示しが付かない。」
(さっきとは話が違う!!)
ニアは思わず唇をかんだ。
「 だが前エンルーダ王が、我等に成そうと尽力した事に敬意を払い、お前をキャラバンに売りはせぬ。」
(ああ、やっぱり連れてこられた昨日の夜。本来は男達の物になる予定だった。)
「我ら山で住む人人は、女を自分の物にするもしないも、自由ではあるが、基本、命がけで攫ってくる。 簡単に手放せば、養う事も出来ないと他の者が見て力ないと判断する。」
睨みつけるニアの視線など、物ともしない様子で、ランダは腕組みをしながらニアに告げた。
「 貴方が言っている話に、気になる事があるのだけど。」
少し張ってきた腹に癒しの力を注ぎ、ニアは改めてランダ を見据える。
「グリーグが前エンルーダの王だと言うのは分る。けれど山の人達にした行いというのは一体さっきから何なの? 」
「、、、呪われた巫女は身重の様だ。 我々は余り女に対していい扱いはしていないかもしれないが、身重の者を立たせておく訳にもいかん。しかし、お前を受け入れる事もできん。 」
どうやらニアが腹を擦る様子に気が付いたのか、意外にも、ランダが気遣う言葉を紡いだ。
「俺の小屋に連れていくわけにもいかない。」
しかし、話には山の人による事情があるのか、ニアには解せない部分が出てくるのだ。
「貴方達、 家族がいるなら女性を連れて帰る訳にはいかないというのは分かるわ。 別に歓迎してくれとは言っていない。 逃して欲しいだけ。」
ニアが知る由も無い事柄が、グリーグとランダ達の間で有ったであろう予想は間違いない。
「其れに答えになっていないわ。」
ニアは確信し、ランダに今一度問うた。
「はあ、ここから降りる事も出来ないのによく言う。見かけと違って強気な巫女よ。 いいだろう、皆も改めて聞くことになる。」
ランダは組んだ腕を外して、大げさに両手を天に仰いで見せると、周りの山の人を、ぐるりと見回した。
「此のビッグツリーの下は昼間でさえ魔獣が多い。 そもそも、呪われた巫女は此の山の地を一体何だと思っている。 」
「辺境エンルーダの国境で自然の砦にもなる国防の山脈では無いの?私は元々エンルーダの人間では無いから。」
ニアとランダが佇む小屋が作られた巨木は、周りにも沢山の『ビッグツリー』なる木はあるが、一際高い。
其の巨木に向かって、沢山の視線が注がれる。
(まるで、静かだけれど、、王都の断罪で向けられた視線みたいに、刺さる様、、)
「 山脈は昼夜問わず、凶暴な魔獣が犇めく。其の為、巫女の国が罪人を『魔獣刑』と称して、罪人を捨てる。山に捨てられ、大抵は魔獣に食われる。しかし逃げ切れる犯罪者もいる。」
(!!!罪人の処刑地!!)
「なら貴方も罪人なの?!」
数奇な運命か、どこまでも断罪死の匂いがニアに纏わりつく様に感じて、ニアはランダに叫んだ。
「違う。確かに曾祖父はそうだった。しかし祖父や父は違う。我は都で言う罪を犯していない。今住むのは罪人と、男等の子孫が残ってるという状態だ。 我々に里に降りる権利は未だ無い。 里を形成する事が認められていないからだ。」
『辺境エンルーダには、死人が集まる』と揶揄されるのは、墓守りの役が故だと考えていたニアは、教えられていた内容が全てでは無かっと、今、知った。
「でも男ばかりで、どうして子孫が生まれる事になるの。 」
少なからず隠されていた領土の姿に、動揺しながらも、ニアはランダに聞くが、『ある事』にも思い付いた。
「ああ、山の人達が辺境修道院から女性を攫うのは、、」
侮蔑の眼差しをニアがランダに投げつけ、周りの山人を見回す。
(『辺境修道院に送られる』其れさえも、死人が集まるエンルーダって事なの!!)
「確かに、罪を犯した人間は、欲を満たす為に人攫いもする。しかし我等は必ずしも一つでは無い。」
凪いだ様な表情で、ランダは修道院襲撃の事実を語った。
(やっぱり。信頼出来る相手では無いのかもしれない。でも、、)
「山の人にも、今現在を罪を成した者た達と、其の子孫で分れて居るのね。」
今だに呪いにガタガタと震えているだろうイーサンと言う、ニアを攫ってきた男達は、ランダの侮蔑の顔からも、子孫派とは違うのかもしれないが。
(概ね、此処に集まって居るのは罪人の子孫で、、)
「三世ぐらいになると、何故『山』へ入れられて居るのか分からなくなる。 何代もの贖罪で縛り付けられ、家族を作る事が出来ない。」
ニアは、ランダの言わんとする事が予想出来た。
「これを国に交渉し、子孫代の我等に村として平地を作る事を申し出たのが、前エンルーダ王だった。」
(前領主、、グリーグの悲劇の発端が、山の人の子孫集落の申し出だったなんて、、)
没落し、他領で平民として暮らしてきたニアが、エンルーダと山の人・皇族との交渉事など知る機会は無い。
何より『先代領主の悲劇』の方が、平民の噂話として有名だったのだ。
「もう1つ聞きたい事があるのだけれど、貴方たちの家族、、母親や女達はどうしてるの? 」
「呪われた巫女は、これから身をもって知る事になる。 攫った者が女を売るかどうかを決めるが、生憎、巫女を連れて来た男ふたりは権限を放棄した。すぐに砂漠のキャラバンへ連れていく事になるだろう。 」
子孫派であると聞いたランダに、一瞬期待をしたニアが、続けられた言葉で顔色を失う。
「巫女が見せた力ならば砂漠で重宝される。 特例で巫女は、銭の遣り取りはしない。しかし、ルールだ。攫った女はキャラバンに引き渡す。」
(其れって、家族の女もキャラバンに渡すって事!!)
「逃がしてくれるんじゃ無いの?」
「其れは無理だ。 俺は今此処の山を纏めている。さっきも言ったが、現在に罪を犯かして入ってきた者も多い。其の子孫としての我等も合わせて纏めるには、特例を認める訳にはいかない。」
「、、、、」
「其れに巫女は小屋からを下に降りられない。 見張りをする場所なだけで、食料も飲み水も無いだろう。 どうする? 」
聞いてはくるが、体の良い脅迫だとニアは理解して、ランダの案に非難の言葉を飲み込んだ。
「分かったわ。 貴方の言う通りにする。『 売る、売らない』という事は、貴方達の交渉相手は、、」
「砂漠で娼婦を扱うキャラバンだ。我等の 女達は大抵其処に預ける。 ビッグツリーしか無い不毛な地で、平地も無ければ耕す事も出来ない。 山で得た魔獣の材料も一緒にキャラバンに渡して生きている。」
今度はランダが、エンルーダとは逆の方向を指差した。
遠く巨木の森林の果てに、砂に烟る空が見える。其処に砂漠が広がるのだろう。
「 ありがとう。 本来なら捨てて置いてもおかしく無いのに。」
「 イーサン等が言うには、触る事も出来ない様な女だ。居られると見張り小屋が使えない。此処は特に巫女の国が一番よく見渡せるからな。 」
ランダの言葉にニアは、気になっていた事を尋ねる。
「 じゃあ、魔獣戦はどうなった? 」
もとより、イグザムはどうなったのか。
「共食いでデカくなった猿は、幾らか生まれた。あれが一番デカい猿になるのは、最終的に何時になるか分からん。 」
「そう。」
最後にあんな所業をした義兄だが、次期領主となる人間。
たとえ精霊の祝福があったとして、何の施しもせず身体の中心なるモノを切れば、出血多量でショック死してもおかしく無い。
何を考えているのか、ニアにはイグザムが皆目分からなかった。
(魔獣の共食いで時間稼ぎが出来ているかもしれない。まだ、気になる事は山程ある。)
「エンルーダを襲ったのは、貴方達では無いのね?」
ニアがエンルーダ領を、何とも言えない顔で見る傍ら、ランダは片手を上げて、山の人に合図を送る。
ニアを小屋から動かす準備を始めたのだ。
「違う。隣国の兵を連れた、金色の髪をした高貴な貴族。女だが、、魔女かもな。此の袋に入れ。」
どうやら、下には降りずに巨木に紐を渡して、皮袋のニアをランダが担いで運ぶらしい。
「どうして、魔女だと言うの。」
ランダの戯言だと思う台詞に、ニアは相槌を打ちながら、大人しく袋に入る。
きっと男共は、自分に直接触れる事はしないのだろうと思いながら。
(でも、グリーグの時はそうでは無かった様な。)
身を焦がす様なというが、誰でも本当に自分の皮膚が爛れるのは御免なはずだ。
されど幾季節か過ごしたグリーグとの生活で、触れ合う事も無かっただろうか?
(そういえば、此の核石は何時浄化すべき?)
ニアは皮袋の中で、服に仕舞った『ガラテアの石』を自分の腹と一緒な撫でる。
「魔女は核石を欲しがる。魔獣、魔法使い、そして恋人達の石を。」
ランダは、ニアを皮袋ごと、簡単に肩へと持ち上げて、隣りの巨木へと飛んだ。
「人の核石に手を出すのは、魔性の女だ。」
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