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2-1 虹彩の赤子
オ、オギャア!オギャア
ァァァァァァ
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ニアが2度目の生を受けたのは、長閑な気質で、海洋鉱物質が豊かな南洋国ルーベンスの第3王女マフィラナ。
彼女の時でさえ、タニアが毒杯を呷ねばならなかったのは、もはや運命だったのだろうか?
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オ、、、ギャアァァ!
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他国への政略婚姻として、正妃候補となったマフィラナ。
外交による政略結婚のはずが、国入りをしてみれば待っていたのは『正妃候補』という屈辱。
其の上、覚えの無い王族暗殺の容疑を掛けられた不幸。
目にした広大な後宮には、正妃候補として来たマフィラ以外にも、何人もの側妃や、準妃、末妃までいた。
中でも、王の寵愛を一身に受ける側妃が生んだ赤子を手に掛けたと、夫となる王に断罪される。
其れがニアの前前前世、王女マフィラナの冤罪による毒杯死だ。
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|||||オ、オギャア!
(赤ちゃん、、わたしの赤ちゃん。)
エナリーナの手に抱かれる赤子が上げる産声を、額に汗しながら息を整えるニアが聞いた場所。
其れは、、砂漠の中に居住する異民族のテントだった。
必死に出産した子供は、、
(桃色の髪、、)
砂に汚れた衣服を着るニアは、人知れず安堵した。
(結局、マフィラナも濡れ衣を着せられた。寵妃スーリュヤの赤ちゃんは、、母親、、本人に殺されたのだと思うのよね。)
鮮やかな織布に包まれる赤子の顔。
ニアに似て、愛され令嬢系の大きな瞳は、珍しく無いパープルサファイア色をしている。
ただ、、、
「ねえ、タニア、、あ、ニア。此の子、青紫の瞳に虹彩があるわ。これって。」
「虹彩って何なの?」
「ニアは知らないの?虹彩は瞳に虹の光が出る事よ。虹彩はリュリアール皇族の証で、、」
(、、もしかして、瞳の色はウイルザードに似たの、、)
光の中で覗けば赤子の瞳は、虹彩を秘めたパープルサファイアだったのだ。
例え赤子の瞳を見たところで、皇太子と同じ瞳の色だと知る者もいないだろうと、ニアは考えていたが、さすがに元リュリアール帝国貴族である、学友エナリーナには、『皇族の証』まで分かってしまったらしい。
「其れは、、知らなかったわね、、、」
リュリアール帝国において、没落貴族のニアは、ほぼ平民に等しかった。
民達と同じ暮らしをしてきたニアは、母がエンルーダのアースロに後妻入りした事で、貴族らしい暮らしになったぐらいだ。
とはいえ付け焼き刃で叩き込まれ貴族的知識は、辺境の領土・エンルーダらしく、ひどく偏っていたのだと改めて知る。
ゆえに、ニアの頭の中には皇族の証についてなど、全く記憶自体が無い。
「、、、ニア、わたしの記憶が、あっていたらだけれど、、貴女、あの仮面舞踏会で、殿下と踊ったとか言ってなかった?」
エナリーナが言葉にしたのは、学園の夏至祭で開催された仮面舞踏会。
「・・・・」
「そうなのね。此の子、、やっぱり殿下のお子なの、ね。」
「此の子は、リュリアールと何も関係無い、、!!」
砂嵐が近いのか、ニアが断言すると共にテントが風で揺れ、エナリーナが赤子をしっかりと腕に抱き直した。
(あの日。)
朝になっても姿を消したままだったニアは、心配をしていたエナリーナに、夜通し踊っていたと伝え、踊った男子生徒の中にはウィルザード皇子もいたと嘘を付いた。
目立つ桃色の髪を、金髪に染め上げ、最初の生でデュタントの時に着たドレスに酷似した服装で楽しむニアの後ろに、、仮面を付けたウイルザードが立っていた。
勿論、踊っただけだという言葉が嘘だった証が、エナリーナの手の中に居る。
「どうして。わたし達みたいな髪色で、殿下と関係を持つまでになったのよ、 其れに、、どうするつもりなの?ニア。」
ニアは、エナリーナの問いに思わず瞳を揺らすと、押し黙った。
そもそもエナリーナに前世の話など出来る訳が無いと、産褥の清めもままならないニアは唇を噛んだ。
テントにはニアとエナリーナ。
そして、生まれたばかりの小さな存在だけ。
|||||フ、ギャア、、ァ、
「、、もう!分かったわ。でも気を付けましょう!ニアは呪われた巫女なんて言われているし。襲われなくても、其れこそ殺されるかもしれないんだから。」
どうやらエナリーナは黙るニアの心内を、別の方向へと解釈したのか、赤子の臍の緒を場末の裁縫道具で何とか処理をしている。
無論、其れもニアとエナリーナの此の状況ならば仕方の無い事なのだ。
「、、そうよね、わたし達の身の上だって分からないのに、、子供まで取り上げてくれて、、ありがとう。」
少し前の学園時代では、想像も出来ないエナリーナの姿に、ニアは横になったまま感嘆する。
婚約破棄後に入れられた修道院で、どんな事があったのかとニアは思案する。
「こんな砂漠で、女なんて男の道具でしか無い。其れも出来ないなら何時放逐されも、おかしくないのよ?」
令嬢エナリーナ・ルー・ファッジ。
婚約者エリオットに婚約破棄をされた事により、辺境の修道院へ送られていたはずが、今は砂漠のキャラバン隊にいる不思議さ。
ニアは、エナリーナの言葉に涙が走った。
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