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いつの間にか歌い終えていた大沢がじっと佐藤を見つめていた。何度も名を呼んでいたのか、大沢のその瞳には心配の色が伺えた。
「あ、あぁ……ゴメン。大丈夫」
佐藤は瞬きを繰り返し、自分を見つめる大沢にそう云って微笑み返す。「そうか」と納得して立ち上がった大沢は、スタスタとおもむろにマイクスタンドへと歩き出した。そしてマイクのスイッチを入れると、簡単なマイクテストを行い佐藤に向かって意味深な笑みを浮かべた。
「サトやん……やるか?」
大沢はマイク越しにそう云って、佐藤に人差し指を向けるとクイクイっと挑発するように屈折させる。
「そう……だね」
佐藤はもうとっくにチューニングを終えていたギターを抱え直し、大沢の脇をすり抜けていつもの立ち位置へと向かった。
その時……
「ん……?」
ドアのガラス越しに見えた人影。思わず佐藤は声を出していた。佐藤の視線がその人影を捉えたまま動かない。
人影はずっとこの部室内を見つめていた。この部室が連なるクラブハウスは校舎とは離れている為、各々の部室に用事がない限り一般生徒は滅多に通らない。
そして、ドア越しの人影は佐藤の視線には気付いていない様子だった。
「?」
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