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一瞬声を出して、次の瞬間には黙りこくって立ち止まってしまった佐藤に、大沢は不思議そうな眼差しを向ける。そして佐藤の視線が向けられている方向に、大沢も同じように視線を向けてみた。
そこには一人の学生。精悍な男らしい顔つきで、切れ長の瞳は触れれば切られてしまいそうな視線をこの部室内に向けていた。そんな目にかかっている髪は真っ黒で、まるで闇をそのまま吸い込んだかのような色をしていた。身長は低くもなく高くもなく……175センチ前後と云ったところだろうか。名前は分からないが、胸ポケットに付けられた校章のバッジの色から、佐藤や大沢たちより一つ後輩に当たる一年生だと判断した。
「サトやん、知り合いか?」
「あ、いや……オレは知らないけど。大沢くんの知り合いじゃないのかなって思ってたんだけど?」
佐藤はドア越しの“彼”から目を離さないまま大沢にそう答えた。
キョロキョロと部室内を見回す彼の目には、ドアからは死角なっていて見えない佐藤と大沢が当然見えていなかった。
「一年生やろ? 今の時期に入部希望か? まぁ、別に珍しい事とちゃうけどな」
大沢はそう云って、マイクをスタンドに戻すとドアに向かって歩き出した。佐藤はそんな大沢の背中を見つめているだけだった。
「何や? 入部希望か? 遠慮せんと入ってきたらえぇのに」
「ッ!?」
ドアを開けると大沢は何の前置きもなしにそう云った。ドアの外にいた“彼”は、部室内に人がいると思っていなかったらしく、いきなりドアが開いた事に驚きを隠せないようだった。
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