罪な思い×罪の意識=PUER

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 確かに、異常気象のせいで10月も後半だと云うのに暖かい。だが、怪談が流行るには時期が遅すぎる。  普通ならここで引き返すものだが、一見クールに見える佐藤の知られざる好奇心旺盛・超常現象好きが頭をもたげる。そのまま佐藤は心の赴くまま、どんどんと声のする方へと足を進ませていた。床が木造という事もあって、ギシギシとBGMも最高のものが用意されている。こうなると、まさに典型的な怪談話に出てくるシチュエーションだった。  そして声が聞こえてくるのは、いつも佐藤が使用している部屋からだった。佐藤は、この部屋のドアは閉めるとなかなか開かない事を知ってる為、いつも少し開け放しているのだ。そして今この瞬間も少し開け放されていた。  入口近くに立った佐藤が見たのは、今日昼休みに部室を覗きに来ていた青年だった。  その彼は、佐藤がいつも座っている、所々破れた革張りの椅子に腰掛け、天井を仰ぎながらイヤフォンを装着してどこかで聞いた事のある歌を歌っていた。  幽霊ではなかった事にホッと胸を撫でおろした佐藤だったが、目の前にいる彼のあまりの歌の上手さ、そしてその声の良さにその場に釘付けになって聴き惚れていた。  どれくらいそうしたまま時間が経過したのだろうか。佐藤の視線に気付いた青年は、ハッとして歌を止めイヤフォンを取る。そして我に返ったのは青年だけでなく、彼の歌声に聞き惚れていた佐藤も同じだった。
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