6人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆっくりと口を開いた佐藤だったが、突然静寂した室内に響き渡った着信メロディーに驚きを隠せなかった。自分の携帯か、と佐藤は上着やズボンのポケットを探り携帯を見つけようと奮闘していた。……が、落ち着き払っていた目の前の青年が、ゆっくりと椅子の背凭れから体を起こすと上着のポケットからおもむろに携帯を取り出した。
そして携帯のディスプレイを見た彼は、突然椅子から立ち上がると真っ直ぐに佐藤の方に向かって歩き出した。
青年は、入口に立っていた佐藤の脇をすり抜けると、先ほど佐藤がやって来た道をそのまま歩き去って行こうとした。
「あ、ちょっと! 名前……教えてよ。オレは2ーAの佐藤 要司」
佐藤の急な言葉に足を止め振り返った青年は、一瞬だけ怪訝そうな表情を見せたものの、「1-C、黒崎 春斗」とだけ云い残して踵を返すと再び歩き出した。
「黒崎、春斗……ねぇ」
佐藤はその時には気付かなかった。これから幾度となくその名を呼ぶ事になろうとは……
最初のコメントを投稿しよう!