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米倉は佐藤に向けていた視線を、口を噤むと再びスコアに戻した。五線譜の上に並んだ音符たち。米倉は頭の中でスコアの曲を奏でてみるが、佐藤の云うようにこの曲は“大沢に合わない”と感じた。何を基準に米倉がそう感じているのか知る由もないが、彼の中で“大沢”と云う存在がこの曲と合わさった時に妙な違和感を感じるのだろう。彼は、大沢の存在感の強さとこの曲のインパクトの強さが、反発し合って融合するどころか曲とボーカルが別々の道を歩みそうだと思っていたのだ。大沢のボーカルが個性的であるように、佐藤の作る曲もまた個性的過ぎるのだ。
「でもさ、今回はボクが曲を書くとしても、これからどうするの? 来年からは二人だけになるんだよ?」
「それなんだよねぇ……」
姿勢を正していた佐藤だったが、大きなため息をついてそう云うやズルズルと椅子の背凭れに体を預ける。
「悪い! 遅なった!」
その時、ドアが開くと共に関西弁のイントネーションの声が勢いよく部室内に飛び込んできた。佐藤と米倉の二人には、声と喋り方で誰だか即見当がついていた。
「遅かったね、大沢。どうせまたどっかで眠りこけてたんでしょ?」
「ちゃうがな、信ちゃん! ちょっと将来の事で担任に呼び出されとっただけやんか」
「将来? 今の時期に?」
米倉は訳が分からないと云う表情で佐藤を見つめる。
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