視察

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視察

 オフィス街にある、どこにでもあるコンビニ。  ビルがたくさん建ってるだけあって、会社員の人が吸い込まれるようにコンビニに入る。  少し場違いな気もしたが、僕は恐る恐る、あの動画の撮影場所のコンビニへと入る。 「いらっしゃいませ~」  少し低めの、しかし怖い感じはあまりない男性の声が響いた。  一人、隠れるように、とりあえず飲み物コーナーへと奥に進む僕。  声の主は誰だろうかと、こそこそとレジ方面を見る。 「……いた!」  あの動画の店長、というか、忍者、というか、ゴリラだ。  動きに隙はなく、きびきびと働いている。  レジに人が並んでいなければ、少しレジを離れて、商品の前出しメンテナンスを行っている。  そして、レジに人が来ると、瞬時に中に入る。  それはもう、目にも止まらぬ速さで。 「ボク、何かおつかいかな?」  僕は、跳ねた。漫画のように飛び上がった。  今の今まで、レジ付近にいたよね?  ここ、レジと真反対のドリンク売り場ですよ?  瞬きしたその一瞬で、ゴリラ店長が僕の目の前に表れた。 「あー、ごめん、驚かせちゃった?」 「あ! いえ! あの!」  僕は口をパクパクさせて驚いていたが、一度生唾を飲み込み、改めて口を開く。 「店長さん、忍者なんですか!?」 「えー?」 「そうだよー」 「ちょっと咲耶、何横から口出してるの」  僕は、店長に聞いたが、答えたのは「咲耶」と呼ばれたポニーテールの女子高生だった。  この咲耶もまた、音もなく僕の目の前に表れたのだった。 「……あ! 咲耶チャンネルの咲耶さんですか!? 僕、あの動画をみてここに来ました!」 「ほんとー!? 私のファン!? 嬉しいー!」 「違います」 「えー!?」  咲耶は、驚いたり喜んだり悲しんだり、忙しい人であった。  そんなことはさておき、僕は店長に頭をさげた。
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