14 新しい命

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 麻由は、何も言えなかった。  怒りや悲しみで泣きそうになっている兄を前にして、ただ唇を噛むことしかできない。  そのまましばらく沈黙が続いた後で、麻由はぽつりと呟いた。 「これから、どうすればいいのかな?」  頭の中はぐちゃぐちゃだった。何もかもがわからなくなり、不安と絶望感だけが募っていく。  愛する夫が、他の女性と関係を持ってしまった。その上、相手の女を妊娠させてしまったかもしれないのだ。こんな残酷な現実を、どうやって受け止めればいいのだろうか。麻由は途方に暮れてしまっていた。 「あのさ、麻由」  不意に冬弥が口を開いた。その表情は真剣で、何かを決意した様子だった。 「また一緒に暮らさないか?」 「……え?」  突然の提案に、麻由は驚きの声を上げた。 「静流との婚約は解消する。もうあいつとの将来は考えられないよ。俺はこれ以上、お前が弱っていくのを見てはいられない」  冬弥の口調は穏やかだったけれど、どこか決意めいたものを秘めた響きがあった。 「それにお前だって、もうあんな家にいたくないだろ?」  優しい声で冬弥が問い掛けてくる。だが麻由は、兄の言葉に戸惑うばかりだった。 「離婚しろってこと?」 「そうだよ。もうあいつとは別れるべきだ」 「そん、な」  麻由は言葉を濁らせる。だが冬弥の口調は有無を言わせないものだった。 「いいか、智樹は間違いをおかした。これ以上あいつと一緒にいてもお前が不幸になるだけだ」 「でも」 「それに、ずっと前からお義母さんとの関係に悩んでいたんだろ? 子供ができないことを責められて、小さなことでも嫌味を言われて、お前も限界だったはずだ」 「確かに、そうだけど」  麻由は俯きがちに答える。  兄の言うように、麻由はずっと前から理沙子との関係に悩んできた。事あるごとに理沙子は麻由の至らぬ点を指摘してきて、ネチネチと小言をこぼしていた。  その度に麻由は辛くなり、自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう毎日を過ごしていた。 「それにあの人は、静流が何をしてもお前の味方をしてくれなかったんだろ。そんな家今すぐ離れた方がいい」  冬弥の言葉に、麻由は何も言い返すことができなくなってしまった。
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