1 陰鬱な食卓

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 麻由と智樹は友人の紹介で知り合った。  智樹は積極的で明るく、それでいて誠実で真面目な性格をした男性だった。背が高くて体格がいいところにも、頼もしい印象を受けたものだ。  けれど麻由が惹かれたのは、彼の自信に満ちた明るい瞳だった。智樹はどんな時でも胸を張って堂々としており、まるで太陽のように輝いて見えた。  麻由は自分に自信が持てず、いつも後ろ向きなことばかり考えてしまう性格だった。だからこそ、自分とは正反対である彼に憧れを抱いたのだ。 『キミさえよかったら、僕と結婚してほしい』  智樹にそう言われた時、麻由は天にも昇る心地だった。彼は結婚相手として申し分ないどころか、自分には勿体ないくらいの人なのだから。 『いつも一生懸命なところや、優しい笑顔が好きなんだ。ただ隣にいてくれるだけで、明日も頑張ろうって思える。こんな気持ちになる相手は世界でただ一人……麻由しかいないよ』  真っ直ぐに向けられる眼差しに、麻由は泣きそうになってしまった。自分が必要とされていることが、嬉しくてたまらなかったのだ。 『智樹さん……ありがとう』  麻由は感謝の気持ちを伝えながら彼の胸に飛び込んだ。  自分みたいな女が智樹のように素敵な人に選ばれるなんて、奇跡としか言いようがない。  それに智樹の母、理沙子も麻由を気に入ってくれたようで、結婚を後押ししてくれたのだ。 『あなたが智樹と結婚してくれたら嬉しいわ』  理沙子は優しい笑みを浮かべながらそう言っていた。それが社交辞令ではなく、本心から出た言葉であることは、彼女の目を見ればすぐにわかった。  結婚式の打ち合わせなどで会うととても喜んでくれたし、式の当日もずっと笑顔で祝福してくれた。  そんな義母だからこそ、麻由は結婚後すぐに智樹の実家に移り住んだのだ。 (あの頃は本当に幸せだったなぁ)  麻由は溜息を吐く。  あの当時はまだ理沙子との仲もよく、幸せな家庭を築いていた。昔は内気だった麻由も笑顔を見せることが多くなり、食卓にはいつも明るい空気が満ちていた。  それなのにいつからか、その幸せな時間は消え去ってしまったのだ。
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