1 陰鬱な食卓

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 うんざりとした気持ちで家事を終え、麻由は寝室へと向かった。  ベッドに腰かけて、また一つ大きな息を吐く。  ようやくのことで一日が終わってくれる。しかしそれはつかの間の安らぎでしかないことを、彼女は理解していた。 (また溜息が出ちゃった)  自分でも嫌になるくらい憂鬱な気分になってしまい、麻由は思わず顔を歪める。  夫や姑と一緒に食事を取り、笑い合って楽しく過ごす。そんな幸せな日々が遥か遠い過去のように思えてくる。 (どうしてこんなことになっちゃったんだろう)  麻由はぼんやりと考える。そしてすぐに答えが浮かんできた。 (全部私のせいなんだ)  結婚から四年経った今でも、麻由は子供を授かることができていない。  それが原因で理沙子との仲がぎすぎすしてしまっている。理沙子は孫の誕生を心待ちにしていたし、麻由自身も子供が欲しいと強く願っているのに。  子供を産めない嫁など、理沙子からしたら邪魔者以外の何者でもないのだろう。それがわかっているからこそ、惨めで申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。 「麻由、どうしたんだ」  ドアを開けて智樹が入ってきた。彼は麻由の顔を見ると、心配そうに声をかけてくる。 「何でもないよ」  麻由は平静を装って答えたが、声が震えていたかもしれない。彼女は慌てて視線を逸らすと、ベッドの端に座り直した。すると智樹も隣に座り、優しく抱きしめてくれる。  彼の体温を感じるだけで、麻由の心は癒されるようだった。  しかし同時に不安にもなる。もしこのまま子供ができなかったら、自分はどうなるのだろう? 理沙子との関係は更に悪化し、きっと今以上に居心地が悪くなってしまうに違いない。それに智樹も麻由に愛想を尽かして離れていってしまうかもしれないのだ。  そんな想像をするだけで、麻由は泣きそうになってしまう。 「大丈夫だよ、麻由」  智樹はそう言って優しく髪を撫でてくれた。その優しさが嬉しくて涙が出そうになる。だけど同時に罪悪感に苛まれる。 「ごめんね、智樹さん」 「急にどうしたんだよ?」 「私、智樹さんの奥さんなのに、ちゃんと子供も産んであげられなくて」  麻由が謝ると、智樹は首を横に振った。 「今はその時期じゃないってだけさ。気にすることはないよ」 「でも……お義母さんだって、がっかりしているもの」  麻由がそう言うと、智樹は困ったように微笑んだ。  結婚して一年もすれば、子供を授かることができるものだと楽観的に考えていた。それなのに未だに妊娠しないのだから、焦ってしまうのは当然のことだ。  もちろん麻由だって、自分の体に何か問題があるのかもしれないと思い、検査を受けたことはある。しかし結果は異常なしだった。  智樹の方にも問題は見つからず、夫婦共に健康体だという診断結果が出ている。 「麻由は何も悪くないよ」  智樹は優しく囁いた。 「母さんのことは気にしないでくれ。僕がなんとかするから」 「でも、智樹さんは忙しいのに、私のせいで迷惑を――」  そう言いかけた時、ベッドサイドに置いてあった麻由のスマホが音を立てた。画面には兄の名前が表示されている。
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