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「ぶえっくしょん」
馬鹿でかいくしゃみだったが、マスクをつけているお陰でまわりには今の俺の惨状はバレていないはずだ。しかし、バレていないからといって、このままでいるのは非常に気分が悪い。なにせマスクの中は、飛び散った唾と鼻水でグチャグチャな状態で気持ち悪い。
「なんだよ、佐介、風邪か? 夏風邪はバカがひくっていうらしいぞ」
「うるさい。俺がバカなら、俺より下の成績の翔太は大バカってことだからな」
「うっ、カウンター食らった」
「くだらないことを言っているからだよ。ちょっとトイレ行ってくるわ」
しかし、ボーリング場で良かった。あんな馬鹿でかいくしゃみをしても、ピンが弾ける音が鳴り響いているお陰でまわりの注目を集めることもなかった。早くマスクの下を綺麗にして、新しいマスクに取り替えたい。そんなことを考えながら俺はトイレに急いだ。
トイレに入り、マスクを取ると予想通りの惨状だった。マスクをゴミ箱に捨てて、ティッシュを取り出すために左手をポケットに突っ込んだ。
「あれ、ポケットが深いような、ヒャアっ」
何かが俺の指先を掴んだような気がして、思わずポケットから思いっきり手を引き抜いた。
ティッシュが変な風にクシャクシャになっていて、掴まれたような変な感じになったのだろうと自分を納得させ、再びポケットに手を突っ込んだ。しかし、俺の考えを嘲笑うかのように、今度は先ほどよりもしっかりとナニカに指を握られた。得体の知れない事態にパニックになりそうになる。そんな中、俺はあることに気がついた。
指先を摩っている? いやなぞっている?
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