一話   結婚

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一話   結婚

 「そう、緑もそんな彼氏ができたのね。わかったわ。今度の日曜日ね。楽しみだわ〜緑を頑張って育ててきた甲斐があったわ」 母の山岸さえはそう言うと涙ぐんでいた。  「お母さん。泣かないで〜あの時逃げなかったらお父さんに私とお母さんはずっと暴力振るわれ続ける事になってたよ。ありがとうお母さん小学生だった私と一緒にあの家から逃げてくれて、 私が好きになった人はとっても優しくて暴力なんて振るわない人だから安心してね」 「お母さんは緑が選んだ人だから間違いないって思ってるわ。どんな人でも賛成するつもりよ。暴力振るう人以外わね」  「それじゃあ、今度の日曜日正午にうちに連れて来るわね。美味しいもの沢山用意しておいてね」 「わかったわ」    山岸緑は今、幸せの絶頂期だった。  緑の母、山岸さえは二十年前まで夫の暴力に 悩んでいた。緑が幼い頃から会社から帰ってきたさえの夫の山岸亨は緑とさえにまるで会社の ストレスを発散するかのように暴力を振るった。  さえはそんな夫の暴力に耐えきれず緑を連れて家を出た。いずれ家を出ようと思っていたさえは必要なものだけは旅行用にカバンにまとめてあった。知り合いの弁護士に相談したさえは弁護士からアパートを用意してもらいそこで生活していた。その時から母と緑の生活が始まった。  シングルの母の辛い状況は緑にも痛いほどわかっていた。緑は、高校を卒業した後働いて家にお金を入れて生活を助けていた。  そんな母が私の結婚を喜んでいる。 「さあて今度の日曜日お昼何を作ったらいいかしら?彼お寿司好き?うなぎの方がいいかな?それとも天ぷら?」 「お母さん何でもいいよ。彼ね好き嫌いしない人だから」 緑はそう言って笑った。  母のさえは「じゃあ、お寿司は注文して天ぷらとサラダは作っておくね。味噌汁も用意しないとね。今から掃除しておこうかしら〜」 「お母さん、落ち着いて。今日は月曜日なんだから日曜日までまだまだ時間があるから」 「そうねー。でもどんな人か楽しみで」 その時、山岸さえと娘の緑は今度の日曜日に彼が来る事を心待ちにしていた。  緑は彼の携帯に電話を掛けた「母がね。裕司 さんが来るのを心待ちにしているの。お寿司と天ぷらとサラダを用意するって張り切ってるわ」 「そんな気を使わなくていいって言っておいてくれよ。俺は緊張して今から心臓がバクバクするよ」 緑の彼は鎌寄り大学病院の内科医だった。優しい彼は看護師にも人気があった。緑はその病院で働いている看護師だった。先輩達を出し抜いて緑が内科医の谷裕司の心を掴んだのだ。  そんな緑は今、幸せの絶頂期だった。沢山の看護師の中で私を選んでくれた。  私だけの谷先生になってくれるんだ。私だけの 緑は次の日曜日が待ちきれないほど楽しみになっていた。 続く
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