一話    結婚「日曜日」

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一話    結婚「日曜日」

  山岸緑は今日初めて結婚相手の谷裕司を母の山岸さえに会わせる事になっていた。  「じゃあお母さんそろそろ時間だから裕司さんを駅まで迎えに行ってくるね」 「わかったわ。お母さんも緊張してきた。料理はテーブルに並べてあるし、掃除もしたしドキドキする初めての事だし」 「お母さんこんな事は今日一度だけしかないから そんなにドキドキしないでよ。とにかく迎えに行ってくるからね。お母さん落ち着いて彼の方がもっとドキドキしてるんだから、行ってきます」  「はい、行ってらっしゃい」 暫くすると玄関のチャイムが鳴った。 「はい、今開けますね」 「お母さん、こちらが谷裕司さんです」 「娘さんとは二年間お付き合いしておりました。谷裕司と申します。宜しくお願いいたします」 「母の山岸さえです。娘から裕司さんの事は聞いていました。どうぞ中へお昼の用意できていますから、緑洗面台へ案内して」 「わかった。裕司さんここで手を洗ってコートはそこに掛けておいてね」  「さあ、裕司さん食べて」 三人はお昼を食べながらいろんな話をした。 そして谷裕司は言った。「お嬢さんを必ず幸せにします。僕と結婚させてください」 山岸さえは谷裕司をじっと見て言った「ごめんなさい。緑が連れてきた彼ならどんな人でも反対しないって決めていたんだけど、谷さんあなたは申し訳ないけど駄目です」  母の突然の言葉に緑は驚いていた。 「お母さん、何で今更?彼の何処が気に入らないの!」 母のさえは「緑ちょっと奥に」 そう言ってキッチンの奥の和室に緑を呼んだ。 「あの人は駄目、お父さんと同じ冷たい目をしてる。笑っている時もあの人の目は笑ってない。緑が結婚するときっとあの人に暴力を振るわれるかも知れない。何だか胸騒ぎがするの。あの人はやめた方がいいと思う」 「はあ?目が気に入らないって。それだけで? 私はお母さんに反対されても結婚するから裕司 さんしか考えられないの!」 「私は反対!あの人は恐ろしい人のような気がする母親の勘だけど」 「お母さん裕司さんはお医者さんだしお母さんが歳をとったら診察してもらう事も出来るし給料もそこそこもらってるんだから反対される理由はないと思うけど」 「とにかく駄目」 緑と裕司は何度も説得したが母のさえは首を縦には振らなかった。  二人が母親を説得してから一年がたとうとしていたそんなある日、職場の先輩二人から緑は呼び出された。  「山岸さんこの病院では谷先生は人気があるけど、私達も何だか嫌な予感がするのお母さんが言った通り結婚は辞めた方がいいかもしれない。谷先生の目はいつも笑ってないし、何だか怖い感じがする」  緑は言った「私は谷先生しか考えられない」 そう先輩二人に緑はきっぱりと話した。 そんな時、谷裕司は病院の屋上に緑を呼び出した。  「緑、あれからずっとお母さんを説得してる。 説得してからもう一年になる。この病院でも俺達の結婚を快く思ってない人もいる。 このままだと結婚できないかもしれない。 君はもう三十一歳だ僕は子供もほしい 君だってほしいだろう?こんな時、僕も両親がいたら相談できるけどは僕には兄弟も両親もいないからね。 だから僕は考えたんだ。 二人で駆け落ちしないか? 群馬の山奥に僕の別荘があるんだよ。 その別荘の事は誰にも話した事がないんだ。 君が初めてだよ。 その別荘でささやかな結婚式をあげないか? 緑さえ良ければ二週間後に出発しよう。 待ち合わせ場所は深夜三時病院の駐車場で。 二週間後の今日と同じ水曜日いいね。 それまで僕は別荘の中を結婚式場みたいに飾り付けをしたり神父を頼んだりしておくからね。 実は丁度僕は、明日で仕事を辞めるんだよ。 群馬大病院から誘いが来てね。  そこで働こうと思ってるんだ。来てくれるね?誰よりも緑を愛してるよ」 緑は迷わなかった「わかったわ。私もこの病院辞めるわ結婚するんだし」緑は裕司にそう言った。 ところが谷裕司は緑に言った。 「同時に辞めたら怪しまれる。緑は辞めるとは言わずに二週間後突然失踪したという事にした方がいい。お母さんや同僚にばれないようにいいね」 緑は裕司には何か考えがあるんだろうと思い。 「わかった。二週間後今日と同じ水曜日の深夜三時に駐車場でね。これで私達幸せになれるのね」 谷裕司は言った「そうだよ。幸せになれるんだよ」 「私達二人っきりで結婚式挙げられるのね」 「そうだよ。僕の別荘が結婚式場で新居にもな るんだよ」 「とにかく僕は一足先に別荘に行って結婚式場 らしく内装を整えてから緑を迎えに行くよ二週間後に駐車場までね。緑に別荘を見せるのが楽しみだよ」  緑は病院の屋上で裕司に抱きついた。そして熱いキスを交わした。  二人が二週間後失踪を考えている事は、 病院で働いている看護師や医師は誰も知らなかった。  これで幸せになれる私は結婚できるんだ。 山岸緑は初めて見る谷裕司の別荘を想像しながら楽しみにしていた。 続く
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