16人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
十六話 こけし【一週間前】
こけし祭りの準備は着々と進んでいた。井上家も母圭子は毎日のようにススキの町の人達と一緒にこけし祭りの準備に出掛けた。
こけし祭りを何とか成功させようと町会では
いろんなところに寄付を募ったり今まで貯めていた町会費の全てを使って町を活性化する為に
ススキの町の大人達全員がこのお祭りに掛けていた。
ススキの町の大人達には楽しみがあったそれは、準備した後お茶やお酒を飲みながらお喋りをする事だった。
井上圭子もこのお喋りの時間がとても楽しみだった。
ところがお祭りの一週間前いつものようにお祭りの準備をして帰って来た井上圭子には元気がなかった。圭子は食欲もなく、ため息を吐いていた。
流石に父剛も妻の圭子の異変を感じ「どうした?何かあったのか?お祭りやるんだってなー?昨日隣の鈴木さんから聞いてね。御神輿の練習に来ないか?って言われたよ。俺は仕事で手伝えないけど、お祭りの手伝いがきついならそう言った方がいいよ。
それとも具合が悪いのか?なら仕事休んで圭子と一緒に明日にでも病院に行くよ」
圭子は夫剛に「お父さん違うのあのお祭りは〜」と剛に言いかけた。
剛は圭子に言った「お祭りがどうかしたのか?お祭りに何かあるのか?」
井上圭子は剛にそう聞かれたが圭子は夫の剛に結婚してから初めて嘘をついた「何でもないの」
そう言って夫の剛に何も言わなかった。
そして娘の久美子も母の圭子に聞いた。
「お母さん正直に言って何かあるんでしょう?最近元気ないし食欲ないし、そう言えば近所の向井
さんの家の陽子ちゃんのお母さんも最近元気がないらしいよ。今日陽子ちゃんと道で会ってね。相談されたの。向井さんもお祭りの準備熱心にしてたよね?
お祭りの準備の事で揉めたの?喧嘩になったとか?予算が足りなくてお金もう少し出して欲しいとか?テレビ局と揉めたとか?何かあるなら言ってお母さんが町長の小池さんに言えないなら私が代わりに言うよ。
もう高校生だしお母さんの話し聞くよ」久美子にそう言われても母の圭子はこれ以上家族に迷惑掛けられないそう思い久美子に言った。
「何でもないの。ごめんね町を活性化させる為のお祭りだもんね。お母さん頑張るよ小池さんも頑張ってるんだから」
井上圭子は家族にそう答えるしかなかった。
ススキの町の皆んなを裏切る訳にはいかない。
自分が裏切ったら私の家族は町の皆んなから仲間外れにされるかもしれない。
このお祭りは義務なんだ仕事なんだ。
そう思って取り組めば何とかなる。
その為には小さな犠牲は仕方ない。
そう思えばいい。町を活性化するにはもうこの方法しか残ってない。
井上圭子は心の中で自分に言い聞かせてから久美子に言った。
「久美子もうお母さん大丈夫だから、何だかお腹空いちゃった〜。ちらし寿司でも作ろうかしらね?」そう言って笑顔でキッチンに向かった。
井上剛も久美子も祖母の清子も元の元気なお母さんに戻ってくれたんだと思って安心していた。
このこけし祭りが100年以上前に盛んだった筈なのに急に開催しなくなった本当の理由をお祭りの準備に参加していなかったススキの町の住人は何も知らなかった。町を活性化するにはリスクがあるという事を……
最初のコメントを投稿しよう!