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十六話 こけし【病院】
藤宮と宮部は病院に急いだ。
「着いたぞ藤宮さん。署長も着いた頃だろう」
「急ぎましょう。三階ですよね?検査室は」
「そうだ、三階だ急ごう」
藤宮と宮部は階段を駆け上がり三階の検査室の前に着いた。
「署長〜電話で話した事は本当なんですか?」
「そうらしいご両親に私も直接聞いたんだ。検査室の前にお祭りでお菓子を貰った子供達のご両親が座っているだろう。お話を君達も直接聞いてみた方がいい」
宮部は「そうですね。今聞いて来ます」と言い検査室の前の椅子に座っているご両親のところに向かった。
藤宮と宮部は両親に話掛けた。
「あの時、テレビでインタビューに、答えていた小林さんですよね?智君が居なくなった時と帰って来た時の様子を聞きたいんですが〜」
「はい、智はあの時まだ六歳でした。こけしのこけ子ちゃんとお菓子を大事そうに持って家に帰りました。そして家でお菓子を食べていると〜そう言えばあの時、智は変な事を言ったんです。このこけしに〜って?私がどうしたの?って聞くと何でもないって誤魔化したんです。でもその後お菓子を食べて普通にしてたから何も気にしませんでした。その日の夜家族が寝静まった時何か物音が聞こえたような気がしました。その後地震が起きたじゃないですか?あの夜私は地震が心配だったので智が寝ている部屋に行ったんです。
そしたら窓が開いていて智はもういませんでした。誰か部屋に入った形跡もありません。
たぶん智は自分から窓を開けて窓から出て行ったんだと思います。それから20年私達は必至で智を探しました。でも、どこを探しても手掛かりすら見つからなかった。それなのに26歳になった智は突然玄関のチャイムを鳴らして帰って来たんです。間違いありませんあの子は智のです。顎に小さなホクロがあるのが何よりの証拠です。
私もあの子に今まで何処にいたのか?聞きました。でも、智は何処にいたのか?場所は自分でもわからないと言っていました。
それに智は皆んなといてとても楽しかった。
お母さんとお父さんが僕を楽園に入れてくれたんでしょう?
友人もたくさん出来たし、勉強や運動も楽しめた。病気になった時は皆んな必死に看病してくれた。とても充実した楽しい日々を過ごした。お母さんありがとう。
俺、これからお母さんとお父さんに恩返しするよ。だから俺と一緒にススキの町に引っ越そう。
俺はススキの町でバリバリ働いてお母さんとお父さんに恩返ししたいんだ。って言うんです。
いくら私が楽園なんて知らない。東京の仕事があるからそんなところに引っ越せない。それに車がないと生活できないでしょう?と言ったんです。すると智は言うんです。
僕が運転するから心配しないでこれから免許取るからまだ26歳だしね。僕はしっかり勉強も楽園でして来たんだ。大学卒業くらいの実力はあると思うよって言うんです」
藤宮は「そうですか〜智君は今もススキの町で働くと言う気持ちは変わらないんですか?」
小林智の母親は言った「そうなんです。親が東京で働くから引っ越せないと話してもどうしてもススキの町で一人暮らしをしてでも働きたいと
言うんです。
智の決意は変わらないので好きにさせようと思っています。智が無事に戻って来ただけで私は嬉しいんです。あと、気になる事があるんです。
智は私と夫の話を全く聞かなくなりました。
例えば私達は楽園の事は知らないと言っても信じてくれず、そんな筈がない。お母さんとお父さんがあの楽園で暮らさせてくれたんでしょう?食事も用意してくれたんでしょう?隠さなくてもいいです。マスコミや警察に話したくないんでしょうと言うんです。まるで誰かに吹き込まれたように」
藤宮は「そうですか〜どうして犯人はそんな嘘を信じ込ませたんでしょう?それに自分から自宅を抜け出すなんてやはりあのこけしに細工がしてあるんでしょうか?智君がこけしに〜と言ったのには訳がありそうですね。智君の部屋は一階だったんですか?」
智の母親は藤宮に言った。「そう言えば!あの時お祭りから帰って来た智は今日は一階で寝たい今日から三日間は一階で寝たいそう言うので部屋を変えてあげたんです。私が二階の智の部屋で寝て智が一階で寝たんです」
「そうなんですね〜ありがとうございました。他のご両親にも話を聞いてみます」
藤宮と宮部は検査室の廊下の椅子に座っている保護者に声を掛けて小林智のご両親に聞いた事と同じ質問をした。
他のご両親も全く同じ事を藤宮に話した。
楽園の話もススキの町で働きたいと言う事もそして、いつもは二階で寝ている筈の子供が智君と同じようにお祭りの当日から三日間まで一階で寝ると言って聞かず一階で寝た事。
そしてもともと一階で寝ていた子供は二階で寝たいとは言わなかった事、そしてこけしを家で触った時子はこけしに〜と何か両親に言おうとしてやめた事そして、楽園は自分の両親が自分達の為に入れたと信じ込んでいる事、両親の話を聞かなくなった事〜全て行方不明になったご両親の子供が話した内容が一致していた。
宮部と藤宮は思った。
そう言えば100年以上前に好評だったお祭り〜確かテレビで町長の小池さんが先祖から引き継いだノートを持っていると言ってた〜そのノートは行方不明当時何処を探しても見つからなかった。小池さんも無くしたと言っていたし、小池さんをいくら問い詰めても何も知らないと言うし、証拠も手掛かりもない。でも皆んなススキの町で働きたいなんてそんな偶然ある筈ない。
何とかして当日行方不明になった人達に聞き出さないと事件は迷宮入りになってしまう。
いったいどうしたらいいんだ?
あのこけしには必ず細工がある筈。でもあの時
あんなに鑑識に調べてもらったのに何も出ない
なんて何で子供達はあのこけしが〜って言ったんだ?
もしかしたら子供達の小さな手しか反応しないようになっているのか?警察は全く捜査が進まず頭を悩ませていた。
続く
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