第1話:長屋頼唯

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昼休み・放課後と、先生にこっ酷く怒られた。 俺は大人しくその説教を聞いていた。 否定すればするほど、なんか言い訳みたいになりそうで。 やけにしおらしい俺を見て、先生もつまらなくなったんだろう。 「謝るくらいならやるな」だって。俺じゃないっつうの。 解放された頃には生徒は誰も居なくて、1人教室に自分の鞄を取りに行った。 それにしてもアイツ…明日学校中探しまわって、文句言ってやる。 苛立ちを抱えたまま教室の扉を開けると、 待っていたかのように、俺の机に腰かけるアイツがいた。 「えらい遅かったなぁ。何してたん?」 まるで友達みたいに話しかけてくる。むかつく。 文句言ってやる気でいたけど、無視して早く帰ることにした。 「待って、嘘やから!ごめん!」 背を向けた俺の腕を掴む。 「先生に怒られてたんやろ?何で本当のこと言わんかったん?」 正確には、言わなかったんじゃなくて、言えなかった。 コイツが火災報知器のボタンを押す瞬間、その表情がやけに頭に残っていた。 悪戯なら絶対できない表情。縋るような、少し切ないような。 それが俺の口を縫い付けて、言えなくしたのだ。 「……お前の名前、知らないし」 拗ねた小学生みたいに、ボソボソと話す。 すると、花が咲いたように彼が笑った。 「お前ええ奴やなぁ!おれ、長屋頼唯っていうねん!名前なんて言うん?」 急に肩を組まれた。なぜか、嫌な気はしなかった。 「…小野田はるか」 「はるか!女の子みたいな名前やなぁ~」 「う、うるせぇ!お前だって戦国武将みたいな名前してるだろ!」 「戦国武将って!おもろい奴やなぁ~」 教室を出る時にはもう、苛立ちなんてものは忘れていた。
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