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「あ、あの、よろしくお願いしまひゅっ!」
西城がビビりながら、会長と俺に話しかけてくる。噛むほど緊張すんのか。
「痛っ」
「夏生、落ち着け。すんません、こいつアホなんで」
東雲が西城の頭を軽く叩き、全く心のこもっていない声で、俺達に謝る。気持ちはわからなくもない。デートに邪魔者が居るんだからな。
「いや、別に構わない。俺様達のことは空気とでも思って、楽しんでくれ」
帝、空気は無理があるだろ。
「流石に空気は難しいと思いますが、行き先だけ言ってくれれば、離れたところにいるんで、何かあったら言って下さい」
今日の俺たちの役目は護衛に近い。
「わかりました」
東雲の目から若干敵意が薄まったのを感じた。だが、西城は一人慌てている。
「でもお二人って、仲が良くないんじゃ…?」
西条が不安そうに言う。
「気にしなくていい。嫌な奴と仕事する程度のこと、俺様にはどうってことない」
「たとえ折りが合わなくても、仕事は出来るんで」
俺達の間にヒヤリとした空気が流れた……ように見えた。内心は二人とも喜んでいる。
「夏生、あんまり突っ込むのもあれだろ。ほら、ジェットコースター行くんだろ」
「あ、うん」
東雲が誤魔化して西城が流される。
「では会長、俺達も行きましょう」
「ああ」
__この後、俺達は西城や東雲の数メートル後ろを歩きながら、ジェットコースターやコーヒーカップ、お化け屋敷等、結構遊んだ。
ジェットコースターは西城と帝は苦手だったようだ。西城は大きく叫び声を上げているのに対し、帝は眉間に皺を寄せて我慢していた。
ちなみに、俺と東雲は全く問題無く、むしろ二人の反応を楽しんでいた。俺のS属性が開花したのかもしれない。そんなこんなで西城と東雲とも打ち解けきった頃には、15:00を回っていた。
「和馬、最後に観覧車乗ろう!」
「わかったから、引っ張んなって」
西城と東雲が観覧車の方に歩き出す。
「俺達も観覧車、乗ります?」
「……まぁ最後だし(お前と楽しんでも)いいだろう」
そうして西城達の次のゴンドラに乗り込んだ。そして帝が大きく溜息をつく。
「はぁぁぁぁ…俺は疲れた」
「あれ、“俺様”じゃなく?」
「俺様は休憩だ」
帝をからかうと、即答して返される。
「お前と遊園地なんて去年ぶりだな」
「夏のときのやつか」
俺が高1で、帝が高2のときの夏休み、デートで遊園地に行った。帝は何と遊園地が初めてで、ジェットコースターに乗った後、物凄い青い顔をしていたのを思い出す。今思うとあれは傑作過ぎて、普段動かない表情筋が総動員している。
地味に思い出し笑いを堪えていると、いつの間にか頂上に来ていた。景色を見ながら、ふと思う。
「帝と出会って、もう一年半以上経つのか」
「……そうだな」
ということは、付き合ってるのも、それぐらいか。早いもんだな……。俺達が物思いにふけって、ゴンドラの旅は終わった。さぁて、これからまた、風紀副委員長になるか。
そして遊園地デートは、思いの外無事に終わった。
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スター特典で帝と稔の初遊園地デートの話が読めます。
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