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閑話 初めて出会った日(副会長Side)
生徒会室から飛び出した後、私は寮の自室で先程の自分の言動を後悔していた。何故あんなことを言ってしまったのだろう。さっきのはどう考えても……
「自分自身に言っているだけじゃないか」
__神谷と出会ったのは、中等部の入学式のときのことだった。私は由緒正しき茶道の名家、佐渡の三男として産まれたが、優秀な兄2人と比べ、何をしてもうまくいかない自分を嫌っていた。学園の多くの桜木が満開に咲いているのを見ても、心は暗いままだった。
そして急に突風が吹いたので目を瞑る。風が収まったのを感じて目を開けると、散っていく花びらの向こうに一人の男が見えた。
あれは……神谷黎人?
初等部の頃から皇と神谷の二人の名前は有名だった。SUMERAGIグループの社長令息とFrontierホールディングス取締役の孫であることもそうだったが、目を引く容姿と有能さが、周囲の心をつかんだのだと思う。私は彼らとの関わりは今まで一切無く、遠い世界の人間だと認識していた。
「佐渡?大丈夫か?」
神谷がこちらに気づき、近づいてきた。
「何がですか?」
大丈夫かと聞かれるようなことは、何もしていないはず。
「寂しそうな顔してた」
寂しい?……ああ、そうかもしれない。彼らみたいに優秀だったら、厳しい祖父に認められるかもしれないと、思ってしまったから。
「そうかもしれませんね」
神谷は私の頭に手を乗せてくる。
「な、何ですか?」
「ん?佐渡を甘やかそうと思って」
「…貴方とは初対面のはずですが」
「俺はずっと気になっていた、佐渡のこと」
神谷がじっと私を見つめてくる。
「姿勢や所作が綺麗だなと、いつも思ってた」
そう言われ、頬がほてってくるのがわかる。
「お世辞はやめて下さい。姿勢が美しい人なんていくらでも居ます」
「そうか?でも、今話していて、話しやすいのは本当だ」
神谷は微笑んだ。
「…貴方、誰にでもそんなことを言うのですか?まるで口説かれているかのように錯覚します」
「いや、少し違う」
少しとは……?神谷は私の右手を取り、自らかがんでキスをした。
「俺は佐渡限定で口説いている」
私は慌てて右手を引っ込める。そのとき不覚にも、神谷の微笑んだ顔が綺麗だ、と思ってしまったのは、桜の花吹雪のせいにしておこう、そう思った。
__あの入学式から、5年近く経ったなんて信じられない。神谷はあの後も私を口説き続け、周囲もそれを応援するので、逃げ回るのに苦労した。
でも、いつからだろう、口説かれるのが嫌いじゃないと気づいたのは。逆に、神谷が誰かに告白されるのを見ると、モヤモヤするようになったのは。この思いに気づいたのは、いつだったのだろう。
……いや、でも、きっと初めて話したあの日から、
「……ずっとこれは恋だったんだ」
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