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閑話 素直になるとき(副会長side)
「泉…」
会議室から出てきた神谷と目が合う。一ノ瀬と蓮巳の会話はずっと聞いていた。ありすのこと関係なしに、今回の件が気になって仕方なかったから。
「どうせ、自分が正しかったとでも言いたいのでしょう?」
「泉、話をしよう」
「嫌です!いつも、いつも…」
泣くな、佐渡家の男児たるもの泣いてはいけない。
「木島、皇、悪い。少し席を外す」
「お幸せに」
副委員長の訳のわからない返事を無視し、神谷が私の腕を引っ張って近くの空き教室に連れ込む。
「泉、大丈夫か?」
「…貴方は、いつも先を歩いて行く。こちらに追いつく暇なんか与えずに」
有能な兄達。末の弟は違うんだと離れていく周囲の人々。きっと、貴方も。
「泉を置いて行ったりしない。手を引いて連れて行かないと、安心出来ないくらいだ」
神谷は私の頭に手を置いた。あの日と同じように、寂しそうに見えてでもいるのか。いつも貴方は私を甘やかす。劣等感なんて消し去ってしまうほどに。だから……
「…生徒会室での言葉を撤回させて頂きます」
「どの言葉を?」
「……慕われている側が負担であるというのは、嘘です」
「お前が俺に対してそう思ってるからか?」
「っ…そうですが何か?!」
何で自分はこんなにも、可愛げのない言い方をしてしまうんだろう。
「泉、誰にでもそんなことを言うのか?まるで好かれているかのように錯覚する」
馬鹿な人だ。もうとっくに、貴方は私の気持ちに気づいているくせに。あの日のセリフを持ち出してくるのはわざとだって、わかっている。わかっているけれど…
「私は貴方限定です!」
つい張り合って、同じように言い返す私もきっと馬鹿なんだろう。神谷は私の右手を取り、自らかがんで、キスをする。ありがとうと言った後、
「俺は佐渡泉をこの上なく愛してるよ」
貴方は今までに無いくらい、甘く微笑んだ。
その後ろに桜の花吹雪が見えたのは、恋のせいにしておこう。
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