187人が本棚に入れています
本棚に追加
11.清華星祭り
7月に入ると、学園は清華星祭りの話題で持ちきりになる。
清華星祭りとは、古来からある七夕の星祭りの風習にあやかってできたものだが、実際は金持ちのための縁日になっている。庶民の暮らしを学ぶのにも良いのだそうだ。屋台のりんご飴2000円とか、買う気する金持ちが理解できないが。庶民はそんなもの食わねーよ。
「星祭りは毎年楽で良いな」
風紀委員長が風紀室で話す。星祭りの屋台は毎年業者に委託しているため、その分仕事量が少ない。業者は学園の卒業生か、在校生の親族なので、学園の風潮を知られても問題ない上に、屋台の設置や管理、食材の調達やらをやらなくていい……。
「木島、カササギに会ったことあるか?」
俺が静かに喜んでいると、委員長が唐突に訪ねた。カササギって
「…鳥のですか?」
「いや、違う」
…だろうと思ったけどな。
「代々カササギと呼ばれている生徒が居るという噂がある。そいつにあることをしてもらったやつは、その1週間後から1年間幸せに恋人と付き合えるらしい」
……胡散臭い。
「1週間後から1年間って微妙ですね。その1週間のうちに何があるかわからないし、毎年会わなきゃいけないじゃないですか。それに代々って、生徒だったら卒業してしまいますが」
「毎年カササギは同一人物だとは限らない。後継者に託してきたんだろう」
そんなものが流行ってんのかよ。1年程度、自分で恋人を夢中にさせていればいい話だと思うけどな。
「泉にこの話をしたら、鼻で笑われた。ひどくないか?恋人のいるお前ならわかるだろう?」
いえ、全然。というか、委員長愚痴りたかっただけか。
「なぁ、そもそもお前の恋人は、この学園の奴なのか?」
「さあ、どうでしょうか」
さらっと俺を探るな。副会長に言いつけるぞ。
「お前もつくづくおかしな奴だな。何故そこまで隠したがる?」
「俺は恋人を独占したいタイプなんです」
「だが、関係を隠したままだと周りを牽制しにくいだろう」
あんたつくづく考えが恐ろしい人だな。
……まぁでも、俺も人のこと言えないかもな。
「牽制っていうのは裏でやるもんです。表沙汰になってしまったら、こちらが不利になることもあるので」
いざというとき、非合法な手段を使わないとは言い切れないしな。
「……お前末恐ろしいな。無表情な顔でそんなことを考えていたとは」
「いえ、冗談ですが」
「……」
それに表情は関係ないだろ。
でも、たまに考えることがある。周囲の前でも、帝と恋人として居られたら、と。帝に好意を持つ奴ら全員に、見せびらかせたらどんなにスッキリするだろうかと。
織姫と彦星は遠くにいても、会えば抱き合えた。俺と帝はこんなにも近いのに、会っても他人の振りだ。二人をつなぐカササギが居たって、意味はない。
俺たちはいつまでこの関係でいたらいいんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!