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幸いにも、りんご飴と焼きそばの屋台は100メートルも離れていなかったようで、すぐに到着した。そして、人混みの中で、委員長の後ろ姿が見えた。あの人髪長いから、一発でわかるんだよな。
「委員長、どうし」
「嫌だ嫌だ嫌だ!絶対、帝と回るんだ!」
……ものすっごい嫌な声が聞こえてきたんだが、気のせいか?過労のせいにしたい。
「…神谷、どうにかならないのか」
委員長の横に帝がいる。ついに幻覚まで見えるとか…いや、これは現実がいいな。まぁ、現実なんだけど。
「木島、来たか」
「…委員長、取り敢えずこれ、剥がしましょう」
これ…つまり、帝に抱きついている転校生。
本当なら剥がすだけじゃ済ませないんだが。
「なぁ、帝、俺と回ろう!祭りなんだから、仕事なんか後でいいだろ!!」
「あのマリモほんとに何様なの?」
「いやっ、早く会長様から離れて!」
転校生のバカでかい声と、それに負けないくらいの周囲の批難の声。
「さっきからこの調子でな。マリモを引き離そうにも、俺だと周囲の目があって逆に炎上する。だから」
な?と神谷サマの微笑みが。
「…あれはアリですか?」
「やむを得ないな。アリだ」
帝、帝と騒ぐ転校生の背後にそっと近づく。転校生に引っ付かれている帝と目が合いそして──
「ぐっ?!」
秘技、手刀(失神レベル)。
ちなみに委員長直伝とも言っておこう。そして周囲は一気に静まり返る。
「…良いのか?これ」
帝がつぶやく。
「強制猥褻行為に対する、正当防衛ですので。委員長、これ保健室に持っていきますか」
「ああ、頼んだ」
よっ、と転校生を俵担ぎにして、さっさとその場を去る。その間生徒たちは改めて、風紀怖い……と思っていたらしい。
──第2保健室にて。
清華学園には、第1保健室と第2保健室が存在する。第1保健室は、基本保険医が在注している。一方、第2保健室は、保健委員の運営が主となる。今は留守にしているようだが。今回転校生はただの気絶だから、第2で十分だろう。そうして転校生をベットに寝かせて去ろうとしたが。ガシッ。
「…………なぁ」
お前、意識戻るの早いな。あと、静かに喋れたのか。転校生が低い声を出すものの、俺の心は穏やかだ。いつもの声はでかすぎる。こんぐらいでいい。
「木島、稔?」
「…そうですが、何か?」
そう聞くと、転校生はグッと押し黙った。何なんだ一体。するとばっ、と顔をあげて叫ぶ。
「俺のこと覚えてるだろ!」
「いいえ、全然」
「何でだよ!お前は、お前は……」
俺が何だよ。
「お前は…俺のライバルのはずだろ?!」
………わけのわからんこと言い始めたな、こいつ。
「俺に好敵手がいた覚えはありませんが」
「っ、お前が……お前がいなかったら!」
ああ、殴られる。さっきは不意打ち狙えたが、面と向かってこいつとやるのは無理だ。パンチがあからさまに、不良の喧嘩慣れした型で避けるすべはない。もうこの際潔く殴られるか。
「ちょっと待ちや、マリモ君」
腹をくくったのに、その直後鼻先スレスレで転校生の手が止まった。
「理不尽な暴力はあかんで?」
目の前には赤茶の髪の男がいて、転校生の腕をつかんでいた。
「何だよ、お前!はなせ…ってお前、まぁまぁイケメンだな!」
「まぁまぁは余計やわ」
あーこいつ。見たことあるな。2年生Sクラスの仁木天斗。確か、抱かれたいランキングの方で、まぁまぁ上の方にいたやつだ。順位としては、記憶に残るようなものじゃなかったが、関西出身というのが目立っていたため、覚えていた。
「で、何しとるん?」
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