11.清華星祭り

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「べ、別になんでもない!なあそれよりお前の名前教えてくれ!」 「俺?俺は名無しの権兵衛ですぅ」 「権兵衛っていうのか!よろしくな!」 信じるのか。転校生、お前いつか高い壺買わされるぞ。  「すまんなあ。俺は理不尽に暴力振るう奴は好かんのや」 「…もういい!!木島稔なんか、大っ嫌いだあああ!!!」 保健室からドタドタと去っていった転校生。 いや、なんで俺なんだ。この流れは仁木だろうに。とんだとばっちりだ。 「君、風紀のとこの子やろ?大丈夫か?」 仁木が人当たりの良さそうな笑みを浮かべて話しかけに来た。 「副委員長の木島です。ご迷惑かけてすみません」 「ええねん、ええねん。でもホンマに災難やったなあ。あの子騒がしいやっちゃな」 耳鳴りしたわ、と顔をしかめている。 「本当にありがとうございました。礼と言ってはなんですが、屋台でなんか奢ります」 「あ、ホンマに?いやー、さっきからたこ焼き食いたかってん」 たこ焼き…関西人の血が騒ぐのだろうか。 「では、行きましょう」 保健室から出てすぐにたこ焼きの屋台は見つかった。 「お、坊主じゃねえか」 「あ、用務員のおっちゃんか」 白いタオルを頭に巻いて、せっせとたこ焼き作っていたのは、学園の用務員のおっちゃんだった。 「この野郎、最近顔見せねえかと思ったら、彼氏と青春謳歌中か」 「仕事が忙しくてそんな暇ねえよ。おっちゃん、たこ焼き1つくれ」 「よし、半額にするから、今度雑草抜くの手伝えよ」 「へいへい」 出来上がったたこ焼きを先輩に渡して、人通りの少ない場所に行く。仁木も割と人気があるから、人目につくようなところに居るのは避けたい。 「木島くん、用務員の人と仲ええん?」 「1年の頃から草抜きとか、電球交換とか雑用手伝ってるだけです」 「ほお、そらまたなんで?」 「去年おっちゃんが腰が痛いって言いながら、門の修理していたのを見かけて、何気なしに手伝ったら、それ以来こき使われてますね」 なるほどーと言いながら、仁木がたこ焼きを食べていく。 「ふぅ、ご馳走さん。それにしても木島くんはええ子やな」 イケメンオーラバリバリで言われても。 「まあ、一応風紀なんで」 「くくっ、返しもおもろいし、なぁ、俺の嫁にけえへん?」 「残念ですが、俺、年上が好みなんです」 まあ、年上でも、俺様でヘタレも追加されるけど。 「なんや、俺フケ顔って言われとんで」 「お若く見えますよ」 しょうもないやり取りをしていると、書紀の放送が始まった。 「間もなく…です。花火の、打ち上げを…開始、します」 どこかで花火の上がるときにお馴染みの、ひゅーという笛の音がした。そして夜空に大輪の花が咲く。 「綺麗やなあ」 「……」 地元の小さな祭りでは見られない、豪華な花火。とても綺麗だ、本当に。しかし、どこか物足りなく感じるのは隣に誰かさんが居ないせいだ。今頃、俺の知らない誰かと見ているんだろうか。 「なぁ、木島くん」 「何です」 か、と言い終わらないうちに額にあたった柔らかい感触。あ、デコチューされたと気づいたのは数秒してからだった。花火の音がやけに遠く聞こえる。 「木島くん、恋人居るやろ」 「…何でそう思うんですか」 「今の顔は恋してるやつにしかできん。それに相手、」 ペンギンさんやろ?と。一瞬フリーズしたが、その後瞬時に察した俺を褒めてほしい。ペンギンと言われて思いつく、ペンギンの代表格と言っていい、“皇帝ペンギン”。皇帝(コウテイ)つまり皇帝(スメラギミカド)。しょうもないけど。 「…何を言って」 「あ、とぼけやんでもええで。俺はそっちのプロなんや」 徹底的に隠し通しているつもりでも、やはりどこかで情報は漏れる。つまりそっちのプロということは… 「…情報屋か」 「御名答」 ニヤッと悪人面して笑う仁木。 清華学園には必ず一人情報屋が存在する。学園長が直々にコンピュータに強い生徒を情報屋に命じるのだ。つまり、情報屋は理事長の犬。学園の様子を知り、生徒を監視するのにはうってつけというわけだ。情報屋が誰なのかは公開されない。しかし、その存在自体は学園で一部の者のみに知らされる。それは、生徒会や風紀が当てはまるわけだが。 「何で俺にバラすんですか?」 「そら、木島くんのこと気に入ったからな。理事長もバラすなとは言わんかったし」 「……」 情報屋なのにそんなに口が軽くて大丈夫なのだろうか。理事長に人選ミスではないかと問いたい。 「…情報屋だから俺とあの人が恋人であることを知っているのは納得しました。でも、それとあんたが俺にデコチューしたのは何も関係無いでしょうが」 さっきからずっと感じていた疑問だ。情報屋がわざわざ俺に絡んで何がしたい?何を企んでいる?保健室で転校生から助けたのも、俺に絡むための過程なのかもしれない。 「俺は恋人関係ひっ掻き回すんが好きでなー。というわけで、さっきの写真、会長に送ったで♡」 「は?」 仁木は満面の笑みで俺にスマホを向けた。そこに写るのは仁木とデコチューされている俺だった。いや、何してんだ。 「おい、あんた、」 「さてと!花火も終わることやし帰るわ。喧嘩は恋の更新やでー。ほんなら、またなー」 ひらひらと手を振って仁木は颯爽と去っていってしまった。そういえば、と思い出す。 『代々カササギと呼ばれている生徒が居るという噂がある。そいつにあることをしてもらったやつは、1週間後から1年間幸せに恋人と付き合えるらしい』 なるほど、カササギの正体は情報屋か。あることはデコチュー。1週間後というのは喧嘩が終わる期間で、1年間幸せに付き合えるというのはおそらく後から誰かに継ぎ足されたものなんだろう。しかし、代々って……情報屋はみんな愉快犯なんだろうか。 なんだかんだあった星祭りだが、後日、帝から写真について問い詰められたのは言うまでもない。機嫌治るのに一週間かかった。
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