17.目が覚めたとき

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17.目が覚めたとき

消毒液の匂いがする。あと、ふわふわの質の良い布団。 目が覚めたら保健室だった。 「おお、起きたか」 「……五十嵐先生」 「そーそー。自分の名前は言えるか?」 「木島稔」 「じゃ、俺のスリーサイズは?」 「……知らないです」 校医の五十嵐紬(いがらしつむぎ)。黒髪、髭、眼鏡とダウナー系要素を持ち合わせ、生徒の一定数から支持を受けている。顔面偏差値は高め。しかし、ノリはいいけどちょっとうざいらしい。 「まあ、そんだけ話せれば十分だな。脳に異常はないけど、打撲と切り傷が酷いからしばらくは大人しくしとけ」 確かに起きようとしたら体のあちこちが痛む。特に左頬と腹がズキズキする。 「でも、骨折一切ないのが凄いな。丈夫に出来てるよお前」 わしゃわしゃと頭を撫でられる。 「…あれから何時間経ちましたか」 「ん?ああ、昨日の放課後から気絶して、んで今は昼前だな」 思ったより経ってた。あれからどうなったんだろうか。 「風紀室行ってもいいですか」 「おいコラ、今大人しくしろって言ったばっかだろうが」 やっぱ駄目か。 「先生」 「あ?」 「風呂入りたい」 「あー……もう少し我慢してくれ」 察してくれたんだとは思う。ベタベタ性的な手付きで触られた身体は気持ち悪くて仕方がない。今すぐにでも洗い流したい。 そしてその後も先生と話していると、コンコンとノック音がした。 「失礼します。神谷ですが入ってもよろしいですか」 「おう、入ってこい」 「委員長?」 「お前が風紀室行きたいって言うからメール送ったんだよ」 世界一有能な校医だと思う。 「五十嵐先生、ありがとうございます。…木島、大丈夫か?」 「打撲と切り傷だけです。それよりあの後どうなったんですか」 「とりあえずお前を保健室に運んでもらって、その間に主犯の奥平とその他3人を風機室に連行した」 あいつ奥平って名前だったのか。 「一応聞くが未遂か?」 「はい。性暴行未遂で処理してください」 「……大丈夫か」 「一応、大丈夫です。未遂なんで」 俺の言葉を聞いて委員長が苦虫を噛み潰したような顔をした。 「すまなかった」 「……いえ。俺に過失がありました」 「いや、お前の学園での立場を知りながら、あんな状況にしたのは俺の責任でもある。それに、お前が仕事ができるからと最近頼りすぎていたしな。この機会に休んでくれ」 「…委員長も充分オーバーワークです。休んでください」 「俺は適度に休んでるぞ?仕事がてら生徒会に寄り道したりして」 ニヤリと笑って言われた。副会長に癒やしてもらってるのか。それいいな、俺も帝に癒やされたい。 「明日は今回の事情聴取をしなきゃいけないが、まあ、今日は休め。放課後までにはまた顔を出す」 「はい。わざわざありがとうございました」 委員長が去った後、再びぼーっとして過ごした。五十嵐先生が何か書類を書いている音をベットの中で聞きながら、今回の事件の反省点について考えていた。 1つは屋上に一人で無線機も携帯も持たず向かったこと。決闘というから壊れないようにと思って手ぶらで行ったことが間違いだった。 もう1つは自分に敵意を持つ人物の動向を把握しきれていなかったこと。風紀副委員長候補とされていた生徒が誰かすら把握できていなかった。対策は練れたはずなのに。 最後は、帝に今回のメモや転校生とのことを何も伝えていなかったこと。多分怒られる。 「おーい」 「はい」 「俺はこれから野暮用で行かなきゃならねぇんだわ。一時間以上かかりそうだから留守番よろしく」 「他の生徒が来たらどうしたらいいですか」 「あーそれは大丈夫。役職持ちしか入れないようにしてるらしいから、おおよそ入ってきたら風紀委員長だろうよ」 特別貸し切りってことか。こんな高そうな病室貸し切りって普通の病院だといくらくらいかかるんだろうか。考えるだけで鳥肌立ちそうだ。 「くれぐれも外出たりしないこと。絶対安静な」 しつこく念押しして五十嵐先生は出ていった。とうとうほんとに暇だ。寝ようにも眠くないし、何もすることがない。 普段仕事に追われているぶん、何もしないことが若干ストレスではある。 帝は今何してるんだろう。
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