18.風紀副委員長の矜持

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『そこまで風紀副委員長の役職に執着していたのか?今回のようなことを仕出かすほど?』 『そうです、まあ、僕自身と言うより僕の家がね』 委員長がそう聞くと奥平は自嘲するような声で返した。 『僕の家は完全な実力主義に固執してるんですよ。優秀な結果が全てで、兄弟同士争わせることが教育だと』 調べたところ、奥平の家は中小企業ではあるが、父親が会社を経営している。そして、家柄の良いところに生まれた、この学園に通う生徒のほとんどが似たような悩みを抱えている。 『父はもはや学園で役職付きになれなかった僕に興味はないんです。在学していようが、退学しようが、どうだっていい、と。僕も学園に執着はないですし、それなら学園を退学するときに復讐したかった』 事情は理解できるが、被害にあったこっちは簡単に許すことは出来ない。 「おい、聞こえるか」 急に帝が隣で話し始めた。手には何かの機械を持っている。 『誰です?』 『おい、皇。そっちの音声をつなぐな。事情聴取中だぞ』 「そいつの事情はわかった。だとしても退学は決定している。だからこそ、一つ言わせてもらいたい。奥平、お前は馬鹿か?」 『……何が言いたいのかはっきり言ってもらっても?』 「お前の家は確かに実力主義に固執しているが、その家に固執しているのはお前自身だ。家のことをどうのこうの言う前に、自分自身に向き合えていない時点で、さっきの話はただ家を言い訳にしているに過ぎない」 きっついけど帝のが正論だと思う。 『…貴方にはわからないでしょうね。生まれも能力も頂点に立っている貴方には』 「ああ、わからない。なぜなら俺は会長についたのは家に言われたからではない。自分自身の将来の野望を叶えるためについたからだ。家に従う必要がどこにある?自分の理想を追い求めろ。会社を継ぎたいなら、乗っ取る勢いで努力しろ。それがお前の野望ならな。お前自身の野望でないと何の成功も成し得ない。以上だ」 一息でそう言って帝はぶつり、と音声を切った。 「ちょっと〜会長、割り込んじゃ駄目って言おうと思ったけど、ちょっと感動しちゃった」 帝らしい意見だ。率直で真っすぐで、一際輝いてる。こういう時、何の恥じらいもなく、自分に素直になれているところがさすがだと思う。 『ははっ、スカッとするくらい言われちゃった。ほんと卑怯なことするもんじゃないよ』 奥平は、片手の甲を目に当てて上を向いた。 『……退学した後でも探せるかな、野望』 『ああ、自分に向き合う時間を作れ』 こうして事情聴取は終わった。
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