1.忙しい新学期

6/7
前へ
/62ページ
次へ
「な、何だよお前!!」 「お、前」 転校生の憤慨する声に混じり会長の戸惑う声が聞こえた。本当は介入するつもり無かったんだけどな。 「風紀副委員長の木島です。これ以上の騒ぎになると、風紀案件になります」 「俺が話してるんだよ、邪魔すんなよ!」 「これ以上生徒会役員とお話になるのなら、風紀委員会を通して貰わないと困りま」 「俺が話してるんだよ!」 人語が通じない。やはりこいつは地球外生命だった。そんな俺たちを見て会長が話す。 「き、…風紀」 「はい」 「こいつは俺が相手す」 「風紀案件です」 「だが」 「風紀案件です」 「……」 俺はこれでも怒ってんだよな、焼き魚食うの邪魔されたし。じっと見つめると、会長は理解してくれたようだ。不服そうだが。 「あいつ風紀の副委員長じゃない?」 「ああ、あの凡人な」 「庶民のくせに出しゃばって」 「生徒会と対立してるのに」 周りの声を聞いて、会長がはっとする。 そして酷く忌々しげな顔をわざとらしくつくって言葉を発する。 「…今回は引いてやる。俺様は寛大だからな」 「「ちょっと待ってよ〜会長」」 「えー帰るのぉ~」 「ん…」 そう言って去って行く会長達を見て、転校生はさらに怒鳴り散らす。 「お前のせいであいつが行っちゃっただろ!どうしてくれるんだよ!!」 「そうですね」 「お前性格悪いぞ!!」 「そうですね」 マジうぜえよ、お前。何勝手なことばっかしてんだ、元の星帰れや。そんな俺の態度を見て、転校生が手を振り上げる。 「あっ…」  「おい、うちの委員に何してる」 副会長の焦った声の後、馴染みのあるバリトンボイスが。……風紀委員長遅いんですが。数分前から居てたの知ってるんですがね。 「!……カッコいいな!!」 お前はそれしか言えんのか。 「名前何ていうんだ?」 「ありすっ、その男に近づいてはいけません!危険人物なので!!」 「だーれが危険人物だって?泉」 「ひっ」 風紀委員長が副会長の腰をそっと撫でる。 ……副会長にとっては危険人物だろうな。風紀委員長は副会長に片想いしていて、長年アプローチを重ねているのだが、一向に交際に発展していないのである(傍から見れば、両片思いにしか見えないので、周囲はそっと応援しているのだが)。 「どどどこを触ってるんですか!」 顔を真っ赤にして後ずさる姿は、女王様には見えず、まるで初恋に戸惑う生娘そのもの。 その反応を楽しむ風紀委員長も、いい加減にしてほしいものだ。 「泉?!大丈夫か!」 転校生お前は空気の読めないやつなんだな。 「姫宮、だったな」 「そうだよ!!ありすって呼んでもいいんだぞ!」 「姫宮、お前は今、うちの委員に暴行を振るおうとした。間違いないな?」 「っだって、あいつが邪魔するから!!」 俺は邪魔じゃねーよ。とも言えず黙って明後日の方向を向く。 「だからと言って暴力に訴えようとしたことに変わりはない」 風紀委員長がばっさり転校生の意見を両断する。こういうとき、頼りになる上司なんだよな。しかし、転校生には何も通じてなかった。 「お、俺は悪くない!!!」 ダッと一直線に扉の方に走り去ってしまった。よし、そのまま故郷帰れ。 「ありす!……神谷、覚えておきなさい」 副会長は風紀委員長を睨みつけた後、転校生を追いかけて行ってしまった。 「委員長の愛しの人は趣味が悪いですね」 「あいつはピュアなだけだよ」 ゲロ甘ぇ……。恋は盲目ってやつか。 「今回は未遂で済んだからいいものの、これから先が思いやられるな」 はぁっと溜め息を吐く委員長に周りがときめいている。しかし、本当に仕事が増える予感しかしない。風紀はさらに激務になりそうだ。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加