2.俺の彼氏

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2.俺の彼氏

清華学園新入生歓迎会は毎年ゴールデンウィークを挟んで実施されている。 転校生の件もあって、生徒会と風紀の休みは全部準備で潰れるのかと思っていたが、役員達の有能な働きによって、何とか2日は休みを取れることになった。 ─そして放課後の今、俺はとある家の前に居る。とりあえずチャイムを鳴らすか。 ピーンポ、 「待ってた」 「速すぎて逆にキモい」 せめてチャイム鳴り終えてから開けろよ。出てきた人物は俺にギュッと抱きつく。漆黒の髪に、整った顔立ち。学園で最も抱かれたい男として有名な彼は── 「会長」 「今はプライベートだ。役職で呼ぶな」 「……帝」 我らが生徒会長、皇帝である。そして、驚くことに俺の彼氏でもある。 というかいきなり抱きつかないでほしい。誰かに見られたらどうするんだ。 「……っ」  「ここ一応外だから」 地味に威力強めなデコピンを食らわす(姉直伝)。効果は上々なようだ。 「俺様は…」  「今はプライベートなんだろ。俺様演技はしなくていいって」 ムッとする家主の帝を放って置き、お邪魔します、と言って家の中に入る。この家は帝の個人宅で、高等部の進級祝いとして親から贈られたらしい。そして俺は遠慮なく頻繁に訪れている。 「俺はお前に会いたかっただけだ」 不機嫌だが少し寂しそうにする帝。学園での姿からは想像のつかないほどの変わりようだ。あー……ちょっときゅん。俺も疲れてんのかな。 「俺も。会いたかった」 さっきデコピンしたところに軽くキスすると、機嫌が直ったようだ。こういうとこチョロいんだよな。可愛いけど。 「仕事続きで1ヶ月はまともに会えてなかったからな。新学期でごたついたのもあるが、何よりあのマリモのせいだ」 帝は眉間に皺を寄せて、忌々しげに溜め息を吐く。  「生徒会の仕事、あいつ関係ばっかだよな」 「あぁ、報告書が山のようにあるし、備品修繕費用も馬鹿にならん」 理事長に申請は出しているが返事はいつになるやら、と帝は再び溜め息を吐く。  「お前と仕事できるようになったのは幸いだったが、少しヒヤヒヤする」 つい名前で呼びたくなるからな……と、帝が言う。 現在、俺と帝が恋人関係であることを知っているのは、学園内には誰もいない。親しい友人にも徹底的に隠し通し、風紀と生徒会という立場でしか会話を交わしたことがない。 帝と俺が恋人であるとバレると、真っ先に帝の信者達が俺を制裁しようとするのは、間違いない。すると、そいつらの反乱を抑えるのに、生徒会と風紀の仕事が増える。そうなると、転校生なんて比べ物にならない位の仕事量と対面することになるだろう。 ただでさえ、俺らの会う時間は少ないのに、これ以上削られるのは勘弁してほしい。そのためなら互いに仲が悪い振りをしたり、相手を非難することも我慢して行う。 「しかし、神谷お前に馴れ馴れしすぎないか?」 「委員長も副会長と帝のこと見て似たようなこと言ってた」 帝は俺と一緒に仕事している風紀委員長に妬いている。同じく、風紀委員長も副会長と仕事している帝に妬いている。2人とも犬猿の仲の割に、思考回路が似通っている。喧嘩するほど仲がいいってやつか。それにしても、  「心狭すぎでしょ」 「ゔっ」 帝の心にグサリと俺の言葉が刺さったようだ。仕方ないな。 「速く飯食おう。後で一緒に風呂入るから」 「いいのか?」 帝が途端に嬉しそうな顔をする。 俺が嫌がって滅多に一緒に入ることのない風呂。俺は嫌というよりは、明るいところで裸を見られたくないだけだ。まあどうせ暗いところでは見られるけどな。 「明日も出かけるんだから、今夜は早く寝たい」 「善処する」 「……」 なんとなく察してはいたが、予想通りその日はほとんど寝かせてもらえなかった。
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