1.忙しい新学期

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1.忙しい新学期

始業式終了後、俺は教室で死にかけていた。 「あー……眠い」 ベットに猛烈にダイブしたい。 新学期と言っても、2年生に進級しただけで何も変わらない。新入生もどうでもいいから早く寝てぇ。 「ちょっと、いつもより顔がブサイクなんですけど」 上から声が降ってきたので視線を向けると、可愛らしい男の顔が… 「栗見はいつも通りだな」 「ちょっと、その反応どういう意味!?」 褒めてんの、貶してんの?!と憤慨しているこいつは、栗見花恋(くりみかれん)。俺の1年のときからのクラスメイトだ。 改めて、俺は木島稔(きじまみのる)。今月から清華学園高等部2年生になった。清華学園とは山奥にある男子校で、初等部から高等部まであるエスカレーター式の学校だ。通うのは何故か、顔面偏差値の高い、有名人のご令息ばかり。 ……そんな中で思春期を過ごすと、どうなると思う?答えは簡単。同性に恋愛感情を向ける、だ。性欲処理にしている面もあるが。 俺は至ってノーマルと言いたいとこなんだが、俺も男が好きなんだわ。別にこの学園に毒されたわけではなく、公立の中学校に通っているときからそうだった。 「―ちょっと、話聞いてる?」 栗見がご不満そうな顔を向けるが、もとの顔が可愛いいので、何も怖くない。なんせ抱きたいランキング上位者だからな。 ……あぁ、抱きたいランキングは何かって?この学園にある、アホな制度の1つだよ。 抱きたい抱かれたいランキングは、所謂生徒会選挙に近いものだ。生徒によって選ばれた、ランキング15位までの上位者は、生徒会役員や各委員会の委員長などの役職を持つことができる。役職持ちは、授業料や学食が無料になるなどの特典を得られるのだが、 「栗見つくづく役職持ちにならなかったのが不思議だな」 そう、栗見はランキング上位者にも関わらず、役職持ちになるのを嫌がった。 「いつも言ってるでしょ、僕は小波様一筋なの。そんなことに割いてる時間はないから」 不機嫌な顔を一変させて、今度は恋する乙女の顔だ。小波様というのは、生徒会書紀の小波浩(こなみひろ)のことだ。体格がいいイケメンだが、吃音気味で人見知り。しかし、動物を愛する優しい癒やし系ワンコであるのがギャップで良い(by栗見)らしい。 「そんなこと言うなら、木島が役職持ちって方が不思議でしょ」 もう新情報ぶっこんでくんな。説明だらけでこっちがしんどい。えーと何だ、俺が役職持ちってこと?それはだな…… 「―2年生Aクラス、木島稔。HR終了後、風紀室に来るように。」 ……放送ピッタリだな。 「……委員長、今日は休みだって言ったくせに」 「仕方ないでしょ。風紀は生徒会と同じくらい激務なのよね」 仕方ないと言いながら、チラチラと俺を心配するように見てくる栗見。ツンデレか。 俺は1年の3学期から、風紀委員会副委員長を務めてる。風紀は生徒会と同等の権力を持ち、仕事は……俺の寝不足の顔から想像してほしい。本来副委員長も、ランキング上位者から選ばれるのが慣習なんだが、俺はイレギュラーだ。そして、顔も家柄も平凡な俺は、一般生徒から反感を買っているのが現状だ。平凡の何が悪い。 ──HR終了後、風紀室に来た。 「失礼します」 「木島か。入っていい」 扉の向こうから、程よい甘さを含んだバリトンボイスが聞こえる。遠慮無く扉を開けると、声に違わず、大人の色気全開の男がいた。 その男こそ、我らが風紀委員長、神谷黎人(かみやれいと)である。黒い長髪に190cm近い長身。常に甘く余裕の笑みを携える大人な雰囲気に、失神した者は数知れず。抱かれたいランキング2位の男の本気はいまだ図れないものだ。 「…今日は休みじゃなかったんですか」 「午前中休んだだろう?ほら仕事だ。」 手にある分厚い書類に目眩がする。この男甘いだけと思っていたら大間違い。仕事に関しては鬼の上司としか言えねえ……。 まあ、こんな俺が送る若干破天荒で普通な日常はじまりはじまり。                     
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