永遠の憂鬱

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「古川です。本日はよろしくお願いいたします」  白シャツに紺のジャケットという爽やかな出立ちで現れた彼は、微笑を浮かべて会釈した。先に席についていた俺も立ち上がり、45度のお辞儀を返す。 「栄光出版の萱野(かやの)です。インタビュー依頼を快諾いただきありがとうございます」 「いえいえ、こんな末端の絵描きにお声がけくださり、光栄です」 「末端だなんて。今どき初の画集が発売即重版なんて、なかなかないことですよ」  男だったのか。そんな意外感を顔に出さないように気をつけつつ、彼に席を勧める。SNSで人気の絵師、古川miel(ミエル)は静かに椅子を引き、俺の向かいに腰を下ろした。  ペンネームの印象から若い女性を想像していたが、まさかの同性、しかもおそらく同世代だ。しかし高校大学とラグビー部で過ごした俺と違い、古川は比較的小柄で痩身の、いわゆる草食系男子に見える。 「場所のリクエストを聞いていただき、ありがとうございます。この店、来てみたかったんです」  古川が目を細めて店を見回す。個人営業だろう小さな珈琲店に、他の客はいない。熊のような髭面の店主らしき男が、カウンターを回りこんで水を持ってきた。
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