永遠の憂鬱

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「ありがとうございます」  穏やかに目を細めた古川は、コーヒーを持ってきた店主にも礼を言い、小さなカップに口をつけた。物腰柔らかで丁寧な彼の姿は、彼が描くイラストの雰囲気と乖離しているように感じてしまう。 「古川さんのイラストは、青を基調にしているものが多いですが、何か思い入れがあるのですか?」  質問を始めると、古川は微笑のまま首を傾げた。 「単に好きなんでしょうね。頭に浮かんだものをカタチにすると、あんな感じになるんです」 「画集のタイトルも、Inseparable bluenote(インセパラブル ブルーノート)ですね。どんな意味なんですか?」 「厨二病くさい造語ですよ。『一生切り離せないアンニュイ』みたいなイメージで付けたんですが、フォロワーさんが『永遠の憂鬱』と意訳してくれました」 「なるほど」  彼のイラストは確かに、どこか仄暗さを感じさせるものが多い。それがSNSで人気になり、書店でも表紙(ジャケ)買いで売り上げを伸ばしているらしい。 「特にZ世代に人気があるそうですが、古川さん自身、若い頃から絵を描いていらしたんですか?」 「それはもう、物心ついた頃から絵ばかりでした。中学には美術部がなくて科学部でしたが、休み時間はずっと一人で絵を描いていましたし、教室では浮いた存在でしたね」
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