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当時を思い出したのか、古川が自分の体を抱くように腕を組み、ぎゅっと体を縮こまらせる。その口元から笑みが消えると、急に陰気な印象になる顔だ。彼から伝染した寒気を感じながら、俺はそう思った。
ム゛ーーム゛ーー
突然、スマホのバイブらしき音とともに胸に振動を感じた。驚いて手のひらで押さえると、胸ポケットの中で震えているのは古川のボイレコだ。
「あ、え?」
戸惑っているうちに振動は止み、顔を上げれば目の前の古川がくすくす笑っている。彼の手にはスマホが握られていた。
「びっくりしました? 実はそれ、セパブルなんです」
「セパブル?」
「覚えていませんか? 私たちが中学生の頃、流行っていたじゃないですか」
「ああ、そういえば」
今の今まで忘れていた言葉だ。昔、携帯電話がまだ大きく重かった頃、受信を告げる「セパレートバイブレーター」が普及していた時代があった。俺の父親はそのタイプの携帯を持っていて、よくテーブルの上で「セパブル」がム゛ーム゛ーしていたっけ。
「懐かしいですね。まだセパブルって販売しているんですか?」
「まさか。それは私の手製です」
「手製?」
「人様の胸を震わせるような作品を作りなさい、と親に言われましてね。それで作ってみました」
「いや、物理じゃん」
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