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しかし、古川はずいぶん話し込んでいるな。
彼が出て行った時間は定かではないが、15分は経っているはずだ。ドアの向こうに目をこらしても、その姿は見えない。ふと視線を落とすと、彼のバッグが席になかった。
ヒヤリ、と心臓が冷える。
まさか、さっきの失言で機嫌を損ねて帰ってしまったのだろうか。
俺は慌ててスマホを取り出し、緊急連絡用に交換しておいた古川の番号に電話をかけた。
呼び出し音と一緒に、自分の鼓動が聞こえる。緊張で体が震えてきた。
しばらくして、プツ、という小さな音の後に、「もしもし」と男の声がした。
「古川さん! 今どちらですか?」
とりあえず、電話に出てくれたことに安堵する。が、スマホから聞こえてくる雑音に、いやな違和感を覚えた。まるで駅にでもいるような、ざわざわした音がしている。
『あなたは、まだ店内にいますよね?』
「もちろんです。古川さんはどちらですか?」
『さっきキオスクでガムを買いました』
「は?」
話が見えない。いやもしかして、急にガムが食べたくなって駅まで行ったのだろうか。困惑している俺に、古川はさらに奇怪なことを言った。
『セパブル、胸ポケットに入ってますよね?』
「ええ。あの、古川さん、」
『それ、爆弾なんです』
「……え?」
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