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「ヤマトです」
日の出は、人工物や生物に優しい眼差しを向けているように、朝であることを報せてくれる。その形容を恍惚とした表情で見つめてしまうのだ。
暖かみのある橙色と輝きの隠せない白色が混ざり合うことをしない光が少女の髪の毛一本一本を照らしていた。名の知らない赤い実がひと粒落ちた。
「君がどうしてここにいるのか聞いてもいいですか」
「見も知らない人に教えません」
そうですよね、と男は目を細める。
「わかりました。私は言葉を書き連ねることを仕事にしています。趣味は散歩で夜明け前の空が好きです。私がマイペースでだらしないばかりにアルバイトの子がお世話担当を任されてしまいました。締め切りが間に合わなかったときは鬼のような形相をしたアルバイトの子がドアスコープを覗けば見えるんです。それがとても楽しいです。楽しいときが、君にもありますか」
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