0人が本棚に入れています
本棚に追加
大和
男が書いた物語によれば、どこからか聴こえた川のせせらぎに、つま先の向く方向が変わっていた。目的はない。知らない土地の散歩は心が踊るのであろうか。足取りは軽い。
朝のうちの涼しいときに見つけた青紫色のアジサイは一際くすんで見えたと言うそれを、男は掬うように触れる。
そのとき、微かに聞こえた。鳥の声のような、人間の声のような音の方向に歩いていくと辿りついたのは川。哀愁を漂わせる少女がひとり。足首まで浸かるほどの浅瀬にいた。
少女はただ、呆然と上を、空を、見つめている。まるで、光の届かない濁りのない深海のような瞳。
最初のコメントを投稿しよう!