大和

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大和

男が書いた物語によれば、どこからか聴こえた川のせせらぎに、つま先の向く方向が変わっていた。目的はない。知らない土地の散歩は心が踊るのであろうか。足取りは軽い。 朝のうちの涼しいときに見つけた青紫色(あおむらさきいろ)のアジサイは一際(ひときわ)くすんで見えたと言うそれを、男は(すく)うように触れる。 そのとき、(かす)かに聞こえた。鳥の声のような、人間の声のような音の方向に歩いていくと辿りついたのは川。哀愁(あいしゅう)(ただ)わせる少女がひとり。足首まで()かるほどの浅瀬(あさせ)にいた。 少女はただ、呆然(ぼうぜん)と上を、空を、見つめている。まるで、光の届かない(にご)りのない深海のような瞳。
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