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忠史 啓子
「これは私の妄想で現実には存在しない」
そんな君に恋をしている、と男は続けた。
春先だというのに雪が降り積もっている。春一番を耳にするのはまだ先の話になりそうだ。
そんなことなど気にしている場合ではない男が1人。薄っぺらい紙を手にし、眺めていた。そのまま畳に体を預ける。ばたん、と弾けた音が青い部屋に響く。
「いつもいつまでもギリギリでこちらの身にもなってくださいよ。先生が言う初恋の人の話は聞き飽きましたけど、僕としてはこのお話はまだ続いてほしい限りです」
原稿は頂いていきますよ、と男が手にしていた1枚を奪うように持ち去って行ってしまった。その際に、ひらりと僅かにはためくは原稿用紙。
「休憩しよう。棚田さんが買ってくれたお弁当食べよう」
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