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転生したら……スライムでした
べしゃっ。
鈍い衝撃が全身を貫く。痛い……? いや、痛くはない。なんだ、この感覚は……。
目を開けると、周囲は暗い。ずっとゆらゆら動いているような気がする。平衡感覚がおかしい。マズいな、三半規管がやられたのかも。
『おーい、誰か……!』
叫んだはずなのに、声が聞こえない。まさか、喉もやられたのか?
いや、そんなことより、今僕はどんな体勢になっているんだ?
前方は確かに暗い。なのに、後方7時の方向に微かな光が見えるのだ。人間の視界は左右合わせて180~200度、片眼の視野は正面から100度が限界だという。僕が見えている光の位置を角度にすると150度になる。あり得ないだろう。
不安を抱えたまま、振り向いた――つもり。体感はよく分からない。けれども、やはりそこに光はあった。とりあえず、光を目指して歩き出す。歩き……多分、歩いているんだよな? 移動している感覚はあるんだから。
しばらくすると、光は外から差し込んでいることが分かった。僕はどうやら洞窟のような穴の中にいるらしい。
よいしょ、っと。
穴の縁に手をかけて、身体を持ち上げる。ずるん、と這い出た感覚があり、そのまま坂道を転がった。
『……ってぇ……いや、痛くないな』
どうもおかしい。これまで17年間生きてきて身に付けてきた経験則が、悉く裏切られている。全身で転がったら、どこかしら痛いはずなのに。
『どうなって――』
ほんのり明るい周囲の景色。身体の下にある湿った草の感触、肌を撫でる涼やかな微風、頭の真上でざわめく高い木々。その梢の遥か上空で輝くのは、紫色の丸い天体……。
『あー、これは……笑えない』
やっぱり、そうなんだな。ここはいわゆる異世界ってヤツで、僕は転生したんだ。恐らく、人間ではない“アレ”に。
溜め息をついた。モヨン、と身体が小さくふるえる。
『こんな、ラノベみたいなことが起こるなんてな』
これからどうしたらいいんだろう。まるで見当がつかない。ん? 待てよ、ラノベだと――。
『ステータス!』
お約束通り、ブン……と正面に半透明の板が現れた。
スライム(衛藤尚史・AGE 17)
HP 130/1000
MP 85/1000
攻撃力 F
防御力 F
固有スキル ●ょうか●(……する者)
『うわ、弱えぇ……』
体力はないわ、魔力も低いわ、オマケに攻撃力も防御力もFランクときた。多分、元の世界の常識だと、ランクの最上位はSSSだ。Fなんて、雑魚中の雑魚、敵に遭遇したら即死亡レベルじゃないのか?
『固有スキルが……読めない』
肝心の部分の文字が滲んでいる。なんとか目を凝らすと、「しょうか」に見えた。しょうか……消化、かな? スライムは、身体の中に取り込んだものを溶かすのが一般的だから、きっと「消化」に違いない。けど、これってわざわざ固有スキルに表記することなのか?
なんにせよ、この異世界で生きていくのは大変そうだ。せっかく助かった命なのだから、大人しく細々と生きのびていくか。
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