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感激? の再会
スライムとしての第2の人生を受け入れることにした僕は、そこでハタと気がついた。
トーコは……クラスのみんなは、どうしたんだろう。
『おおい、トーコぉ!?』
人間の習慣で思わず力いっぱい叫んだ。全身がユルユルッとふるえる。ダメだ、声が出ないんだから、仮に彼女が転生していても届かない。
僕は、慎重に警戒しながら周囲を探索することにした。幸い、このプルプルの身体は足音が立たない。最初のうちこそ這うようにズルズル動いたが、慣れてくると草地も砂地も枯れ枝の上だって、流れる液体のように滑らかに移動出来た。
しばらく森の中を進むと、前方にキラリと光る場所を見つけた。近づくと、大きな池だ。月明かりを反射して、灰紫色に淡く輝いている。
ザバァ……!
突然、池の水が盛り上がり、中から巨大な蛇に似た生き物が姿を現した。巨大水蛇は僕に狙いを付けると、がばあっと真っ赤な口を開けた。
うわあっ! 喰われる?!
為す術なく岸辺で固まった僕の目の前で、地獄の裂け目のような口の中に、一筋の稲妻が飛び込んだ。
「ギャアアァア……!!」
激しい水しぶきを上げながら、巨大水蛇はのたうち回り、やがて切り倒された大木の如く池の中に沈んだ。
「尚っ! あんた、尚史でしょっ?!」
背後――5時の方向から、金色の魔方陣がビューンと近づいてきて、僕の1mほど手前に降りた。そして、ひらりと裾を翻して長いローブを纏った女の子が現れた。
『……トーコ?』
なにも唱えていないのに、彼女の側にステータス板が見える。
僧侶(笹森柊子・AGE 17)
HP 675/1000
MP 842/1000
攻撃力 C
防御力 B
固有スキル かいふく(知略の癒し手)
強え……!
ああ、これが正しい異世界転生だよな。これなら、きっと生き残っていける。
「ねぇ! あんた、尚……なのよね?」
『ああ、そうだよ。こんなナリになっちゃったけどさ』
「もしかして……喋れないの? あたしの言葉、分かる?!」
そうだ、僕は発声出来なかったんだ。悲しそうに見下ろすトーコを見上げて、僕は頭をブンブンと上下に激しく振った。それはもう、ヘビメタのライブで見かけるヘドバンのように。
――ぷるん
『あ』
「……頷いた! ね、今、頷いたんでしょ!」
くそぅ。疲れるけれど、これで意思表示出来るなら!
ブンブンブンブン――ぷるん
「やっぱり! 良かった、尚、生きていたぁ!」
手にしていた長い杖を傍らに転がして、トーコは跪くと僕をギュウッと抱いた。もにょん、と温かい胸の感触が……いや、これは僕自身が変形しただけなのかな。
「……うわぁ。ベトベトする」
感激の抱擁はゆっくりと解かれ、彼女は胸と腕に付着した僕の薄水色の体表液に顔をしかめた。
仕方ないじゃん。スライムなんだから。
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