感激? の再会

1/1
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

感激? の再会

 スライムとしての第2の人生を受け入れることにした僕は、そこでハタと気がついた。  トーコは……クラスのみんなは、どうしたんだろう。 『おおい、トーコぉ!?』  人間の習慣で思わず力いっぱい叫んだ。全身がユルユルッとふるえる。ダメだ、声が出ないんだから、仮に彼女が転生していても届かない。  僕は、慎重に警戒しながら周囲を探索することにした。幸い、このプルプルの身体は足音が立たない。最初のうちこそ這うようにズルズル動いたが、慣れてくると草地も砂地も枯れ枝の上だって、流れる液体のように滑らかに移動出来た。  しばらく森の中を進むと、前方にキラリと光る場所を見つけた。近づくと、大きな池だ。月明かりを反射して、灰紫色に淡く輝いている。  ザバァ……!  突然、池の水が盛り上がり、中から巨大な蛇に似た生き物が姿を現した。巨大水蛇は僕に狙いを付けると、がばあっと真っ赤な口を開けた。  うわあっ! 喰われる?!  為す術なく岸辺で固まった僕の目の前で、地獄の裂け目のような口の中に、一筋の稲妻が飛び込んだ。 「ギャアアァア……!!」  激しい水しぶきを上げながら、巨大水蛇はのたうち回り、やがて切り倒された大木の如く池の中に沈んだ。 「尚っ! あんた、尚史でしょっ?!」  背後――5時の方向から、金色の魔方陣がビューンと近づいてきて、僕の1mほど手前に降りた。そして、ひらりと裾を翻して長いローブを纏った女の子が現れた。 『……トーコ?』  なにも唱えていないのに、彼女の側にステータス板が見える。  僧侶(クレリック)(笹森柊子・AGE 17)  HP 675/1000  MP 842/1000  攻撃力 C  防御力 B  固有スキル かいふく(知略の癒し手)  強え……!  ああ、これが正しい異世界転生だよな。これなら、きっと生き残っていける。 「ねぇ! あんた、尚……なのよね?」 『ああ、そうだよ。こんなナリになっちゃったけどさ』 「もしかして……喋れないの? あたしの言葉、分かる?!」  そうだ、僕は発声出来なかったんだ。悲しそうに見下ろすトーコを見上げて、僕は頭をブンブンと上下に激しく振った。それはもう、ヘビメタのライブで見かけるヘドバン(ヘッドバンキング)のように。  ――ぷるん 『あ』 「……頷いた! ね、今、頷いたんでしょ!」  くそぅ。疲れるけれど、これで意思表示出来るなら!  ブンブンブンブン――ぷるん 「やっぱり! 良かった、尚、生きていたぁ!」  手にしていた長い杖を傍らに転がして、トーコは跪くと僕をギュウッと抱いた。もにょん、と温かい胸の感触が……いや、これは僕自身が変形しただけなのかな。 「……うわぁ。ベトベトする」  感激の抱擁はゆっくりと解かれ、彼女は胸と腕に付着した僕の薄水色の体表液に顔をしかめた。  仕方ないじゃん。スライムなんだから。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!