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異世界の洗礼
森の奥に池が見えてきた。逸る気持ちで近付いていくと、薄紅色の長い管状の塊が水面上でニョロニョロと蠢いている。藤原さんの懸念は現実になった。
「触手だっ……!」
僕達が足を止めると同時に、数本の管がこちらに向かって伸びてきた。宮瀨が反射的に剣でなぎ払う。攻撃を受けると、池の中からショッキングピンクの巻き貝のような本体が現れ、無数の触手が一斉に噴き出した。
「宮、そっちに行ったぞ!」
「くそっ、キリがねえっ!」
僕達は全力で千々に逃げた。触手は器用に木々の間をすり抜けて襲ってくる。体力系コンビが剣をふるうが、切り捨てるだけではダメージにならないようだ。
「アイツの弱点は火炎系よ!」
魔術攻撃系の3人は、触手を避けながら呪文を詠唱しているものの、どうしても時間がかかる。ゲームのように、攻守のターンが区切られているわけではないのだ。
「藤原さん、下がって!」
トーコが杖の先端を本体に向ける。バチバチと火花がスパークし――金色の稲妻が飛んで行った。
バチン……!!
閃光が炸裂して、触手の動きが止まる。
「誰か、続けてっ!!」
トーコが叫ぶ。村西の杖の先から、青白い炎が吹き出した。
四方八方に伸びていた触手がシュルシュルと殻の中に巻き戻っていく。
「……やったのか?!」
息を飲んで様子を窺っていると、巻き貝から数本の触手が出て、ゆっくりと身体の向きを変えていく。どうやら棲み家の池に戻っていくらしい。
「よっしゃあ!」
渡部がガッツポーズをしたときだった。
グシャッ
突然、黒いウロコに覆われた巨大な足が降ってきて、殻ごと巻き貝を踏み潰した。
「見て、翼竜よっ!!」
藤原さんが指し示した上空に視線を向ける。梢の隙間から、翼を持った真っ黒なトカゲが数匹、こちらに飛来するのが見えた。
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