咲耶と岩爺と、黄金の手裏剣と

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「ねぇ、あそこに変なものが落ちているんだけど。あれ、何だと思う?」  森で忍術修行中の咲耶は、ある場所を指さして祖父の岩爺に言った。  「咲耶、またそうやって休憩時間を引き延ばそうとしているんだろ? ここは森じゃぞ。珍しいものなんて落ちているわけがないだろうよ」    岩爺は呆れたように笑う。 「引き伸ばすなんて、そんなこと考えているわけないじゃない。私、体力はあるんだから。お年寄りと一緒にしないでよ」 「お年寄りとは何だ! 確かに年を取って体力は少なめだが、心は少年のままだぞ!」 「ははっ、少年かぁ。うーん、少年は……けっこう無理があるかなあ。ねぇねぇ、おじいちゃんの精神年齢なんてどうでもいいから、こっち来てよ」  咲耶は岩爺の右腕を強引に引っ張りながら歩いた。  すると、そこに黄金の手裏剣の下半分が地面に突き刺さっている。 「わー、キラキラの手裏剣だ!」  咲耶は岩爺の右腕から手を離して、飛び跳ねながら喜んだ。   「黄金の手裏剣……か。うーむ、こんな手裏剣は見たことがないぞ」  と、そこで岩爺は不思議に思いながら、黄金の手裏剣に手を触れようとした。  その瞬間、「んー? 人間? なわけないかぁ」と黄金の手裏剣から声がした。 「きゃー!」 「うぉぉおお!」  咲耶と岩爺は驚いて叫び声を上げた。 「い、今、しゃ、喋ったよね?」  咲耶が確認するように岩爺の顔を見る。 「うむ。確かに、喋ったな?」  すると、黄金の手裏剣が「あ、やっぱり人間だ! やったぜ!」と嬉しそうに喋った。 「きゃー!」 「うぉぉおお!」  咲耶と岩爺は、再び驚いて叫び声を上げる。 「え……? おじいちゃん、これは一体、どういうことかな」 「さあ、さっぱりわからん」 「もしかして、二人の関係は祖父と孫? だよな?」    黄金の手裏剣が、おそるおそる訊く。 「そうだ」   岩爺が後ずさりしながら答えた。 「おいおい、逃げようとするなよ。こっちは困ってるんだ。地面に突き刺さったまま出られなくてよ」 「困ってるのかぁ。ねえ、おじいちゃん、助けてあげようよ」  咲耶が岩爺の顔をみて懇願した。 「いや、でも……」  岩爺は困惑している。 「なんて優しいお孫さんなんだ」  黄金の手裏剣の輝きが微かに増す。そして、「俺を気持ち悪がって躊躇している、性格が悪そうな爺さんとは大違いだ」と小さな声で付け加えた。 「おい、そこの金ピカ君よ、ワシは耳が良いんだよ」 「ああ、そうかい。まあ、ギリギリ聞こえるくらいの声で言ってやったからな。聞こえて当然だよ」  黄金の手裏剣は嘲笑った。   すると、「さあ、咲耶、家に帰ろう」と岩爺が猛スピードで黄金の手裏剣に背を向けた。 「あ、すみません! そこの素敵な男性、俺を見捨てないで下さい。人間に出会えた喜びで、つい調子に乗ってしまっただけです。ですから……そこの素敵な男性、俺を見捨てないで下さい! お願いします!」    黄金の手裏剣は泣きそうな声で、必死に岩爺を引き留めようとする。 「ねえ、おじいちゃん。可愛そうだから助けてあげようよ!」  咲耶が早足で遠ざかっていく岩爺を追いかけながら叫んだ。 「……ふぅ、しょうがないな。可愛い孫の頼みだ。おい、金ピカ君よ。話を聞いてやる」 「そうこなくっちゃ!」  黄金の手裏剣は歓喜した。  
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