第二の性

2/2
331人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 どうやって1日を過ごしたのか記憶がない。いつの間にか放課後になっていて、ゆきがいつものように「一緒に帰ろう」と言って俺の前に現れるまでぼんやりとしていた。 「こうちゃん、大丈夫?顔色悪いんじゃない?」  隣を歩くゆきが俺の方を伺う。 「寝不足だからかな。昨日ゲームやってたら寝れなくなって」 「また?程々にしないとだめだよ?」 「はいはい」   「ねえ、こうちゃんはやっぱりαだった?僕ね、信じられないんだけどαだったんだ」 「え?」  唐突に投げられた言葉が理解できない。α?ゆきがαだと? 「こうちゃん?」 「俺はβだったよ」 「そっか。僕の結果間違いかもしれないな。こうちゃんがβなのに僕がαなんてありえないよ」 「そんな事ないだろ」  笑いながらも声が遠のいていく。受け入れられない現実。いつも守ってきた俺がΩで、か弱いゆきがα。笑える。なんだそれ。 「今日もこうちゃんのお母さん遅いんでしょ?家でご飯食べる?」 「いや、今日は家で食べるよ」 「そう……」  とてもじゃないがいつも通り振る舞えるとは思えなかった。これからもゆきのそばにいて大丈夫なんだろうか。たちまちゆきがとてつもなく恐ろしいものに見えた。もし一緒にいる時に発情したら?αはそのフェロモンに抗えないと聞く。獣のようにゆきを求めてゆきもまた俺を求める。そこに愛などあるはずもなくただ欲望を満たすためにお互いを貪り合う。想像してゾッとする。ゆきが怖いだけではない。自分自身が怖い。不意によろめいて、ゆきが俺の腕を掴んだ。 「こうちゃん、大丈夫?」  咄嗟に腕を払い除けてしまった。 「あっ、ごめん」 「ううん」 「今日は早く寝るわ」 「そうだね。そうした方がいいよ」  この日から俺は誰にも悟られないようにβとして生きていく事を誓った。  成長過程で結果が変わるという噂を聞いた俺はその後何度か検査をしたものの、結果が覆ることはなかった。誰にも見られないように遠くの病院へ赴き、抑制剤を処方してもらう。幸い強い副作用もなくて、発情することなく日常生活を送ることができた。  勉強も運動も普通にできるし、特に支障はない。ただ1つだけあるとするならば、男らしくない体つき。あそこも小さいし、身長もあまり伸びなくなった。  かたや、ゆきは身長がぐんと伸びて、誰もが振り返る美しい男に成長した。モデルをやっていると言ったら納得するような容姿。相変わらず気弱でオドオドしていて、そんな姿が可愛いと女子からは大人気で、男子からは妬まれていた。  恐れていたようなことも起こらず、ゆきとは3年間同じクラスでいつも一緒にいた。俺より大きい癖にいつも俺の後をついてくるゆき。そんなゆきの事がかわいくて仕方がなかった。ずっと変わらない大切な友達。  あの日まで俺はそう思っていた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!