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ちょっと知識がある人ならば、この時点で嫌な予感がしたことだろう。
赤ちゃんにハチミツは絶対あげてはいけない――これは常識である。残念ながら、小学一年生の私たちはそんなことまったく知らなかったわけだが。
先に言っておくと、大事には至らなかった。何故ならばみるくんに“はちみついりの美味しいデザート”を提供する前の段階でいろいろとやらかしてしまったのだから。
まず、牛乳をあっためようとして電子レンジを使いすぎて暴発した。加熱しすぎて沸騰し、電子レンジの中をミルクまみれにしてしまったのである(コップに大量に入れすぎたのも問題だったという)。
さらに、卵を使ってみようと思って卵もあっためようとして同じ轍を踏んだ。
ならばフライパンに牛乳と蜂蜜を入れたものを温めようとして、今度は盛大に焼き焦がすことに。
唯一の幸いは、私達がわーわーやっている間も、一端昼寝をしはじめたみるくんが一切起きてこなかったことだろうか。
「ちょ、あんた達なにやってんの!?」
「うわあああああああああん、ママー!ごめんなさいいいいいいいいいいい!」
帰ってきた両親は、家中が甘い匂いまみれになっていることにさぞ驚いたことだろう。私達はべそをかきながら、母に縋り付くことになったのだった。
話を聞いた両親は、間違いなく気が遠くなったことだろう。フライパン一つを完全に駄目にしてしまったし、電子レンジは修理に出さなければならなくなったのだから。しかも、あやうく赤ちゃんのみるくんにハチミツを食べさせようとしていたというのがわかって真っ青になったはずである。
当然、私達はこっぴどく叱られることになったのだった。
「まだ、二人だけで火を使っちゃだめ。電子レンジは……うん、使っていいとは言ったけど、卵が爆発するとか、あっためすぎるとタイへンなことになるってのは教えてあったはずよね?」
「ごめんなさい……」
「それから、赤ちゃんには食べさせてはいけないものがたくさんあるの。ハチミツも絶対にダメなのよ。まだ体が弱くて、いろいろな菌を分解できないからね。……貴女達が、みるくんを喜ばせてあげたいと思った気持ちは、素敵なことだと思うけど。何が良くていけないか、わからない時は無理なことはしちゃいけないわ。いいわね?」
「はぁい……」
説教と片付けが終わってお父さんがゴミ捨てに行った頃、丁度みるくんが起きてきたようだ。彼は寝起きでもそんなにぐずらない。いつの間にか布団から這い出してきて、黙ってハイハイしてどっかに行ってることが多いのでそれはそれで怖いのだが。
「あ、みるくん!」
その時も、彼はいつの間にやら私達の後ろにいた。私のズボンをひっぱって、何やら訴えかけている。
「あう、ば」
「え、なに?」
「ば、ば、ばば!」
彼の言葉はまだ意味不明だが、ばば、と言った時は祖母のことではないのはわかっている。両手を万歳して、ばば、と言うのは“だっこして”の意味だ。
私はよいしょ、と彼の胴体を抱きしめて持ち上げた。ちょっとだけしか持ち上がらないけれど、彼にとってはそれで充分だったらしい。ぷるぷるぷる、と顔を震わせてみせてくれた。
「……ごはん以外でも、十分よ。あんた達はちゃんとみるくんを楽しませてあげているわ」
お母さんは苦笑して、私達の顔を交互に見たのだった。
「一緒に遊んであげるだけで、みるくんはきっと幸せなの。貴女たちは素敵なお姉ちゃんよ。……だからまず、その時間を大切にね」
「……うん」
間違いながら、失敗しながら、勉強しながら。私達はお姉ちゃんになり、家族になっていくのだ。
みるくんが初“ねーね”を披露してくれるのは、この約半年後のことである。
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